嫌いなあいつが気になって

 頭がまともに働かないまま固まっていると、凛華の顔が更に近づいてきてキスをされる。
 慌てて離れた勢いでイスごとひっくり返った俺は大きな音に騒然とする教室の空気に構うこともできずに走って廊下に出た。

「村瀬っ!お前、また授業っ!!」

 ぶつかりそうになった工藤の制止も聞けずに口元を腕で押さえて走る。
 自然と体育倉庫に向かっていた俺はあそこは色々知られていて人が来ることに気づいて慌てて方向を変えた。



 気づいたら目の前にあったのは図書室。
 そのドアに手を掛けてみるとそれはあの時のようにガラガラと音をたてて開いた。
 あの補充の途中で工藤に教室変更をされて連れて来られた図書室。
 嫌いだった宮部が居て最悪だったはずなのに意外とかわいいと思ってしまった場所。
 キラキラした目で数学について話して、でも、恋しているらしく赤くなったあいつにドキッとした場所。

「あー……あいつ好きな奴居るんじゃん」

 呟いたら涙が出そうになった。
 あの日座ったあの場所のイスを引いて腰を下ろす。
 テーブルに突っ伏して隣を見ても、もちろん宮部は居ない。
 数日前にドリンクバーで初めて一緒に笑って、昨日はあいつを家に連れて来てドキドキしながら夜が明けて……好きかもしれないと思ってすぐにコレかよ。
 友達だったはずの凛華に告られてキスされて……宮部には好きな人が居ることを思い出すなんて。

「どーしよ……」

 呟いたところで静かな図書室はただ紙と埃の匂いが混じったあの日と同じ匂いがするだけだった。