嫌いなあいつが気になって

「昔からね、勉強をしていれば他のことを考えなくても済むし、教科書とノートさえあればどこでもできるから……いつもそうしていたんだよ」

 やっと俺の肩に額を付けた宮部はゆっくりと話し出して、俺はただその話を抱き締めたまま聞く。

「中学に入るくらいかな?お母さんがお金をくれるようになって……あのファミレスの人たちはみんな知っているよ。僕は何年もずっとあそこに居るから」
「何だそれ……」

 少し腕の力を緩めると、宮部は俺の胸を押して離れた。
 目の前に座った宮部は笑っているのに、すぐにでも儚く消えてしまいそうで落ち着かない。
 せめて手を握ろうとしても、宮部はするりと避けてしまう。
 こっちを見ているようで視線は合わない瞳。

「宮部」

 あいつの名前を呼んだ俺はやっとこっちを見た宮部の目を見てグッと息を詰めた。


 入学した時から勉強ばかりしている宮部を見るだけでイライラした。
 どんな話にも乗って来ないで教科書ばかり見ている宮部が嫌いだった。
 でも、席替えする度にあいつの席を確認して、イラつきつつも変わらない宮部にどこかホッとしていたのも事実。
 俺は……いつも意識していたんだろう。
 たぶん、ずっと……こっちを見て欲しかったのかもしれない。
 勉強しか目に入れないあいつの目に……うつってみたかったんだ。
 こっちを向かせて……反応をさせたかったのかもしれない。