部屋に入ってテーブルにお盆を乗せると、床にあぐらをかいてグラスにジュースを注いで渡してやる。
 躊躇いつつも正座をした宮部はやっと抱えていたリュックをピタリと体にくっつけて置いてから両手でグラスを受け取った。

「素敵な家族だね」
「はぁ?うるせぇ姉ちゃんだったろ?それに前もあの怒鳴り声聞いただろー?」

 そっと押し出された言葉に眉をひそめると、宮部は小さく笑う。

「あったかい素敵なお家だよ」

 グラスに目を落とした宮部から目を離して、俺は一気にグラスの中身を飲み干した。

「昔っから絶対的権力を振り翳す姉ちゃんとその姉ちゃんにかわいがられる弟に挟まれた最底辺だよ」
「でも、愛情に溢れてる」

 グラスをお盆に置いて乾いた笑いをすると、宮部は一口ジュースを口にして微笑む。
 あれ?何でこいつを家にまで連れて来たんだっけ?
 一瞬考えて、はっきりとコレだ!という理由は見つからなくて笑いが込み上げた。

「え、何?」

 急に笑い出した俺を見てびっくりしている宮部を見たらなぜか笑い止むこともできない。

「俺、お前のこと嫌いだったのに……」

 明らかに傷ついた顔をして、

「あ、なら今すぐ帰……」

 声を震わせる宮部は何か……。

「だった!って言ってんじゃん!おもしろいな!お前!」
「はぁっ!?」

 グラスを置いて立ち上がりかけたその手を掴んで笑うと宮部はすっとんだ声をあげた。
 そんな声でさえおもしろくて手を持ったまま笑い続ける。
 宮部はそんな俺の手を振り解きもせず、中途半端な体勢のまま困ったように見下ろしていた。