嫌いなあいつが気になって

「どこって……ファミレスで飯食ってるけど?」

 片耳を押さえてスマホを少し離すと、通話の音量を下げる。

『はぁっ!?家に快生(かい)一人じゃない!』

 言われてうんざりした。
 弟の面倒をみるなんてダサ過ぎる。それに……

「はぁ?快生だってもう中二だろ。一人で何が……」
『早く帰って来いっ!この無責任野郎がっ!!』

 被せるように言われて一方的に切れたスマホをテーブルに投げると、宮部は心配そうにこっちを見た。
 それを気にしないようにして肉をナイフで切って口に運ぶと、宮部はまた落ち着きなく視線を彷徨わせる。

「あ、あの、帰った方が……」

 こいつは何でいつもこんなにも人の顔色を窺うような言い方をするのか?

「は?一番下にだけクソ甘いブラコンの姉ちゃんなんてほっとけ!」

 スマホを睨むと、宮部はそっと俺のスマホに触れて丁寧にこっちに向けてから俺の側に置いた。

「それでも兄弟でしょう?家族が……『帰って来い』なんて羨ましいよ」

 微笑んでいるのに悲しそうなその顔から目が離せない。

「……宮部は?」
「ん?」

 ゆっくりと息を吐いて一度自分自身を落ち着けてから聞くと、宮部は穏やかな顔でこっちを見てくる。だが、

「お前は帰らねぇの?」

 聞き直してやると、宮部はピタリと動きを止めた。
 聞いてたか?と確認したくなるくらい何の反応もないままで、ツッコミを入れたくなる。
 それを堪えて待っていると、やっとのそりと動くと宮部。
 ずっと放置されていたシャーペンを手に取って宮部はコーラで少し染みになったノートに目をやる。

「おい」

 耐えきれずに聞くと、宮部はスマホのディスプレイを点けてすぐにまた消した。

「……《《まだ帰れない》》」

 消え入るような声なのに俺の耳にこびり付く。
 物悲しいその声が水に垂らした滴のように暗い水面に輪を描き続けてぼんやりと広がっていった。