嫌いなあいつが気になって

「えっと……村……瀬、くん?」

 謎の間隔を空けて呼ばれて、ため息混じりに顔を向ける。

「座らないの?」

 さすがに真横に座る気にはなれずに一つ空けたイスを引くとそのまま座って足を組んだ。
 帰ってやりたいがさすがに留年はマズい。
 仰け反って息を吐き出しても古臭い天井が見えるだけでつまらない。
 前を向いてもただのカウンターだし、どこもかしこも本ばかりで紙の……図書室独特のこの匂いに気力が全て奪われる気がした。

「これ……やらないといけないんだろう?」

 言われて目だけをやると、宮部はちょっとビクッとして自分の教科書に慌てて視線を戻す。
 何、こいつ……俺にビビってんのか?
 その反応にニヤリとしながら机に左肘を付くと、じっと宮部を見た。
 少し長めの黒髪にきっちり着込んだ制服。
 姿勢良く座っているように見えたが、結構猫背で軽く震えている右手。
 ノートの文字は予想通り整然と並んでいたが、今書いている文字は少しよれていて小さい。

「……それ、楽しいか?」
「え、数学?た、楽しいよ!」

 思いっきりバカにしたつもりなのに、目をキラキラされて言葉に詰まる。

「解けた時のスッキリした感じも、公式当てはめて解いていく過程も好きだし!……何より美しいだろう!?」

 数学ごときに何でこんなにも……。
 付いていた肘がカクッと机から落ちかけて、俺は体を起こして組んでいた足も下ろした。

「勉強が好きとか訳わかんねぇ」

 ピンッとプリントを指で弾いて軽く笑うと、宮部は持っていたシャーペンをゆっくり机に置く。