「うっ……ううっ……ニールっ……ひどいわ……」

 ニールと初めて会った時、本当に素敵な人だと思った。

 目立つ整った顔立ちに撫で付けた黒髪は、同年代の男性たちより数段大人っぽく見えた。

 けれど、彼はイーデン伯爵家跡継ぎの嫡男。いまだ婚約者の居ない貴族令嬢たちにも人気の男性で、周りを囲まれていて、なかなか話掛ける機会もなかった。

 これでは話は出来ないだろうと諦めて、私が帰ろうとした時、不意に声を掛けられたのだ。

「失礼。僕はニール・イーデン。良ければ、お名前をお聞きしても……?」

「あ。私はジェマ……ジェマ・オルセンです。イーデン様……」

 先ほど位置を確認した時は、かなり距離が離れていたはずなのに、彼は長い足を使い素早く近くまで来ていたようだった。

「ここで見送れば、二度と会えなくなってしまうかもしれないと思い……突然、すみません」

「いえ! ……いいえ。イーデン様」

 ……そんな訳はなかった。

 本来なら結婚適齢期の私は、なかなか良き求婚者が現れず、少しでも結婚出来る確率を増やそうと出会いを求めて夜会に来ていた。