だって、ついさっきまで、彼と結婚すると思っていたのよ……いいえ。結婚したいと思って婚約したわ。

 ……駄目よ。ジェマ。

 女好きで浮気性の嘘つき男に、人生を台無しにされて、不幸に堕ちたお母様のようになりたいの。

「ニール。ごめんなさい……貴方は本当に素敵な方だから、私ではない人と幸せになって」

 私はにっこり微笑んで、最後の挨拶にカーテシーをした。

 彼の姿を確認することなく、くるりと振り返って歩き出した。

 男性の浮気は、許すべきなのか?

 許すべきではないのか?

 ……いいえ。

 私の答えは……こんな事があったのだから、今すぐに離れるべき。

 一度裏切った男は、延々裏切り続けるさまを、私は見続けていたのだから。


◇◆◇


「はーあっ……」

 婚約者に別れを告げた私は、城中にある塔の上で、夜空を見上げていた。

 馬車に向かうよりも先に、とにかく、早くひと気のない場所に行きたかった。

 けれど……すぐに邸へと帰るべきだったのかもしれない。

 星空を見ていた視界が歪んだと思ったら、涙が止まらなくなってしまった。