――――パアァァァン!!

 軽やかな音楽が流れる夜会の会場に、平手打ちの良い音が響き渡った。

「……え」

 先日、婚約したばかりのニール・イーデンは、いきなり頬を叩かれたことに呆然として、表情をなくしていた。

「信じられないわ!! 私のことを、好きだと言ったくせに……!! もう金輪際、話し掛けて来ないで!」

「っ……」

 談笑していた私の婚約者の頬をいきなり張った金髪碧眼のご令嬢は、ふんっと鼻息も高らかにくるりと振り返って出口へと去って行った。

 あら。

 あの彼女は私には見覚えのない方だわ……どちらの家の方なのかしら。

 幼い頃から貴族同士で交流していて、顔を覚えている私にも見覚えがないなんて。

 いえ……彼女のことなど、どうでも良いのだわ。

 私にとって大事なのは、今ここにある光景よ。

「ニール。あの方って、どちらの家の方なの?」

「しっ……知らない……」

 私は腰に置かれていたニールの手を、さりげなく外した。その後、触れていた場所をぽんぽんと払うような仕草をしたら、彼の目には傷ついた光。