「ベネディクト。食事中呼びだして悪いけど、シュゼットの足を治療してあげて貰える?」

 クロードは無表情のままで突然姿を現した中年男性に向けて、私の痛めた右足を指さした。

 ベネディクトと呼ばれた彼は、持っていたナイフとフォークを慎重に机の上に置いた。

 わ……なんて、曇りない美しい銀食器。それだけで、彼が裕福な貴族であることが明確にわかってしまう。

 銀食器は毎日磨かないとすぐに曇り、こんなにも光を弾いて輝かない。それだけ使用人が雇える余裕ある生活をしているという、まぎれもない証拠だった。

「クロード……せめて、予告が欲しいと何度も言ったと思うんですけどね。私は食事中だったんですが」

 ベネディクトは無意味だとわかりつつも言うしかないと言わんばかりに、大袈裟にため息をついた。

「悪かったよ。こんなに遅い時間に、食事を取っていると思わなくて」

 クロードはしれっとそう言ったけど、ベネディクトがして欲しいのは呼び出す前の予告であって、食事中だからという事ではないと思う。

「……もう良いですよ。こちらのお嬢さんですか?」

「あ! シュゼットです。はじめまして」