「はーっ……元の生活に戻って来たのね……」

 私は帰宅した家の窓を開けて、二週間振りに元の生活に戻ったことをようやく実感した。

 久しぶりに復帰した掃除メイドの仕事は、ただ飛空挺に乗り隣国を往復して来る仕事に比べれば、常に時間に追われていて忙しなくて大変だ。

 大変だけれど仕事終わりの爽快な充足感は、この生活でしか得られないものだった。

「……シュゼット。こんばんは」

 不意にふわんっと燐光を放ち窓の外から現れたのは、翼を持つ猫……魔獣ギャビンだった。薄紫色の美しい毛並みは、ほのかに発光しているようだった。

 飛空挺の中では、初めて会った時以来は見て居なかったけれど、ギャビンはずっと私たちの近くに居たのかもしれない。

「あら。ギャビン。驚いたわ……クロードなら、今はここに居ないわよ」

 クロードは私を先に送ってから、分身の様子を見てくるとローレンス侯爵邸へ戻ったのだ。執事見習いの働きは深夜に及び、早朝から始まる。まだ働き出したばかりで要領を得ない頃合いには、階段下で眠っていることだってあるくらいだ。

「ええ。知っています。シュゼット。君はクロードの幼馴染みなんですよね……?」

「そうよ。ねえ……ギャビン。勇者が嘘をつけないって、本当なの?」

 別にクロードの話を疑っていた訳ではないけれど、第三者にこのことを聞いてみたかったのだ。

「本当ですよ。勇者として精霊の加護を得るためには、代償に差し出さねばならぬこともあります」

「そうなんだ……大変なのね」