「今日の昼休み。これは、俺が気になっていただけだから。シュゼットは俺が洗った物を干していって」

「あ……はい。わかったわ……」

 大きく腕まくりしたクロードは、汚れた布を手際良く次々に洗い絞った。私は強い力ですっかり水気がなくなっている布を干していった。

 ああ……私が手荒れのことを、気にしていると気が付いたから?

 ……そうよ。同じ職場に来たのだって……おそらく、メイドとして働く私のことを心配してよね。

 クロードの優しいところは、幼い頃から変わらない。

 あの頃だって、私のことを一番に考えてくれていた。傷つくようなことなんて、彼には一度も言われたりされたりしたことない。

 クロードは……私の初恋の人で、それは、何があってもずっと変わらない。

 大事にされていると行動で示されて、今だってこうして胸がときめいてしまうのは、あの頃の気持ちが、心の奥底に残っているからなのかもしれない。

 今は……?

 今はどうなのだろう。

 わからない。だって、再会したばっかりで……すぐにクロードの結婚の申し出になんて、頷ける訳がない。

 貴族令嬢だった私だって、そこまで世間知らずでなんて、居られなかった。一人で生きて行くためには……。

 クロードは最後の布を絞り終えると顔を上げて、私が見て居たことに気が付いたのか目を合わせてにっこり笑った。

 ……駄目。

 私は慌てて彼から視線を外して、せっせと布を干し始めた。

 私の好きだったクロードそっくりの可愛い笑顔で……本人であることを、思い出させないで欲しい。

 何年も経って、終わっていた初恋を、また取り戻す覚悟なんて……まだ、出来ていないんだから。

 白くなった布は吹き始めた夜風にはためき、見上げれば、明るい月が雲から顔を出していた。