「クロード。それでは、高級服屋にでも行く? 三本向こうの通りになるんだけど……」

 彼は勇者として世界救済について莫大な報酬を受け取ったと言われているし、そういう服が必要なのかと気を利かせればクロードは首を横に振った。

「いや、良いよ。古着屋で十分。俺だって時と場合は弁(わきま)えるけど、今買いたいのは普段着るものだから」

「あ……そうなの? そうね。古着屋に案内するわ」

 私は彼の希望に従って、貴族ではなく平民たちが利用する古着屋へと向かった。

 クロードは迷いなく飾り気のない黒い半袖のシャツを選んで、店員に渡していた。

「……シュゼット。良かったら、何か服を買わせてよ」

「え? けど……」

「これは、泊めてくれた宿賃だよ。それならば受け取れるだろう?」

 何もないのに受け取れないと言い掛けた私は、クロードの提案を聞いて思い直した。

 宿屋に泊まる宿泊費を浮かせて、私の部屋に泊まっていると考えると、クロードの言いようは確かにそうだった。

 私がお金を出して借りた部屋を、彼は使わせてもらったのだから、そのお金を払おうと言うのだ。