「そういうこと。あの頃の俺はシュゼットの期待通りに動いていたし、君を喜ばせたかった。シュゼットのことが好きだったからだ。今だって、それは変わらない」

「ふふ。そうね。私はクロードが、お気に入りだったもの……どこに行くにも連れて行ったから、お父様とお母様にも止めるように言われていたわ」

 それはお気に入りのぬいぐるみを、手放せないのと同じ感覚だった。

 可愛いという表現が似合わない素敵な男性になってしまったクロードを横目で見て、私は今はもうそれは出来ないと思った。

 ただお気に入りだからって、自分の言うことを聞かせたいだなんて思えない。

「今もそうしてくれて良いよ。俺はシュゼットと居られれば嬉しいし」

 まるで思考を読んだかのようにクロードは言ったので、私はそれを無視して窓の外を見た。

「……ここよ。クロード。私が住んで居る集合住宅。たぶん、狭くて驚くと思うわ」

 馬車が停まって、私たちは外に出た。