「ああ……手袋していたから、気が付かなかった」

 クロードは私の荒れた手を見て、驚いたようだけど仕方ない。

 クロードが良く知っている私は、水仕事なんて一度もしたことのない……育ちの良い貴族令嬢だったもの。

 水仕事をしなければならない私は肌が弱く、寒い季節には、皮膚が割れてあかぎれが良く出た。今ではそれが積み重なってしまい、肌はかさかさに荒れて水分が抜けてしまっている。

 ハンカチで水分を拭い、手袋を付け直した。

「……ええ。わかるでしょう。ドレスを着た貴族のお嬢様は、手荒れなんてしないもの……隠してたの。でないと、身分を偽って飛空艇に乗る使者なんて務まらないでしょ」

「いや……痛くないの? それが心配なんだけど」

「ええ。これは勲章よ! 私にとっては」

 これは、私が自分で一人で生きて来た証拠。誰にも恥ずかしくない。けれど、役目をこなす上で隠して居るだけだ。

「だったら、それで良いよ。元は育ちの良いお嬢様なのに、シュゼットは一人で生きて、頑張っていたんだね……凄いよ。尊敬する」

 しみじみとした口調で、クロードは言った。

 私が掃除メイドをして手が荒れたことを知った彼は、思ったことそのままを言っただけだ。

 ……なのに何故か、その時の私の目からは、涙がこぼれ落ちそうになってしまった。