私は親戚の家を家出してからというもの、それまでいかに自分が守られ甘やかされていた子どもだったのか、今では思い知ってしまっていた。

 家出して行く先もなく、どうしようと思って居たところに……今の雇い主ローレンス侯爵に雇って貰えたのは、ただの奇跡だった。

 そして、掃除メイドとして働くことになった今ならばわかるけれど、あの時の私は騙されて売られてしまってもおかしくなかった。

 そうはならなかった……だから、本当に運が良かった。

 考え事をしていた私はカップに手をぶつけて倒し、濡れてしまった手袋を条件反射で外した。

「……シュゼット? 大丈夫?」

「ええ……あ。ごめんなさい。驚いたでしょう」

 私は特別任務をこなす時、なるべく手袋を嵌めて、手を見せないようにしていた。それは薄い素材のものだし、食事するにも邪魔にならないようになっている。

 礼儀作法(テーブルマナー)では食事中は手袋を外すことになっているけれど、手に傷があり隠したい方などは許されている特例などもあるので、私も人前では付けたままで過ごして居た。

 ……その理由が、掃除をしていて出来てしまった手の荒れだった。