今なら……誰も……彼が私を求めるのであれば、誰も、文句なんて言わないはずだけど。

 けれど、思い出せない。

 クロードによると『私以外、絶対好きにならないで』と私は言ったらしいけれど、その時のことがまったく思い出せない。

 お気に入りのクロードと離れることになり、誰かに取られてしまうのが、嫌だったのかもしれない。

 我慢をすることを一度も強いられずに、ただただ大事に育てられた『甘やかされた子ども』。

――――まぎれもなく、幼い日の私のこと。


◇◆◇


「俺は、家を見てみたい。シュゼットが今、住んで居る家」

 再会した私たちは飛空挺内に併設されたカフェで朝食を食べながら、そんなことを話した。

 ノディウ王国への下船日はすぐそこまで迫っていたし、そうなるとクロードはこれからどうするんだろうと私も思っていた。

「……私の家に? その、すごく……小さな部屋で、誰かを入れるような空間(スペース)がないわ」

 それは謙遜ではなく、単なる事実だった。

 私はローランス侯爵邸の使用人部屋を出て、近くに部屋を借りていた。