「可愛いからあげる。良かったら、またあそぼ!」

 私はどう見ても可愛い男の子から、大きな花束を受け取って、戸惑って……それで、とても嬉しくなった。

「うん。またあそぼう!」

 満面の笑みを浮かべたクロードは、庭師の子だった。本来ならば、貴族と使用人の私たちは気軽に遊べるような身分ではなかった。

 それが叶ったのは、ひとえに私がクロードと遊ぶことを望んだからだ。

 私の両親は私に甘かったし、クロードの両親だって、主人の娘である私に逆らえるはずもない。私はクロードを気に入っていたし、何処に行くにも彼を同行していた。

 それをおかしいと思う前に、彼には会えなくなった。私の家がもう既に傾きつつあり、絶対に居て貰わなければならない使用人には暇を出して、小さな邸へと移り住んだのだ。

 引っ越しは急で、クロードには挨拶も出来なかった。

 泣いて泣いて泣き疲れても、クロードに会える訳もない。私には元住んで居た邸へ、戻る知識もなかった。

 あの時の……クロードへの初恋。美しいままで終わっていた。

 ……まさか、クロードが私のことをまだ覚えているなんて、思ってもいなかった。

 もし、私が『貴族令嬢』のまま、彼が『庭師の息子』のまま。

 トレイメイン伯爵令嬢と呼ばれていたままであれば、絶対に叶うはずなんてなかった。

 今なら……?