シュゼットが『私以外、絶対好きにならないで』と俺に約束させたのは、確かに事実だった。彼女も幼いながらに、トレイメイン伯爵家が財政的に傾いていることはわかっていただろう。

 もうすぐ別れが来るかもしれないと、察していたのだ。

 しかし、そんな約束がなくても俺がシュゼットを好きなことには変わりない。初恋だから美化し過ぎていると嘲られても構わない。

 それだけ彼女は、俺にとっては大事な存在だった。

 世界救済のため、居なくなってしまったシュゼットを探しに行けないという焦燥感は、今思うと酷いものだった。

 今こうしている間にも何かあったらと思えば呼吸も苦しく、胸を掻きむしってしまいそうなくらいの焦りを感じていた。

 出来るだけ最短で魔物を倒そうと決意した俺は、たとえ自分勝手な暴君だと言われようがそれで構わなかった。

 世界を救うことだって大事だ。それは、わかっていた。シュゼットを探し出したとしても、世界が滅びてしまえば何の意味もない。

 だから、出来る限りのことをして急いだ。

 あの頃はシュゼットが殺されたり誘拐されたり、酷い目に遭っている悪夢を良く見た。