一人で同行者の居ない私はロビーに出て窓際に座り、どこまでも続く白い雲海を見ながらお茶を飲んでいた。

 けれど、辺りを見回せば、同じように女性一人旅だって珍しくない。それほど安全だからだと思う。

 本当に、楽園かと思ってしまうほどにいたれり尽くせりの……とても快適で安全な良い旅のはずなのに、時間に追われる仕事を離れて、ゆっくりのんびり出来ると喜べるのも一日か二日。

 いくら千人を一度に運べる巨大な飛行船の中と言えど、普通の客が行動出来る範囲は、当然のように限定されている。

 大きく透明な窓にある景色を楽しめたのは、壮大な青い空と白い雲が、どんなに時間が過ぎてもほぼ変わらないものだと気がつくまで。

 ……私は必要あって、裕福で優雅な貴族令嬢のように見せかけているけれど、実は今はそうではない。

 昔はそうだったこともあった。けれど、今は没落した家を離れ、メイドとして暮らしている。

 現在の雇い主ローランス侯爵から言いつけられた仕事で、何度もこの飛空艇に乗船している。

 それは、不思議な仕事ではあった。