全て決まっているかのように思われた明るい未来も、住んでいた邸も親も……大事な幼なじみも。

 その手の中にあった、なにもかもを。

「……ごめんなさい」

「あ。ごめん。これは、言い方を間違えた。シュゼットのせいでもないけど……そろそろ、店を出ようか……会計を頼む」

 クロードは思いもしなかった経緯を聞いて混乱した私を見て、ここは店を出るべきだと思ったのか、店員を呼んで会計を済ませるようだ。

「こちらになります」

 ウェイトレスが金額を書かれた紙を持ってきたので、彼は名前と部屋番号をそれに書いた。

 この飛空艇の中では、それが小切手代わりになり、到着時に清算となる。

「あ……ごめん。今このお店に居る人の全員の会計、俺が払うから。この部屋番号に、請求してくれる?」

「よろしいんですか?」

 信じられない様子のウェイトレスは、クロードの言葉を聞き返した。

 飛空艇の中はほぼ富裕層向けの店で、このお店だって決して安くはない。

「ああ。ずっと探していた人が、見つかったからね。幸せのおすそ分けで、俺が勝手にする個人的なお祝いだから」