「これは私……飛空艇には仕事で乗っていて、乗船券や身分証は雇い主の貴族から、何もかも用意されているのよ」

「ふーん……それにしても高そうな可愛いドレスを、着ているね。それも……その貴族の持ち物なの?」

「ええ。貴方も知っているでしょう。今の私は普段はこんなドレスなんて、着られないから……あの後、預けられた親戚の家も出て、一人で自活してるの。これは、ただの借り物のドレスなのよ」

 苦笑いして私の居る立場を、ここで説明するしかなかったけど、あまり説明したくはなかった。

 私は以前は、裕福な伯爵家の貴族令嬢だったけど、十年前にお父様が事業が失敗して、トレイメイン家自体が没落してしまった。

 クロードと別れることになってしまったのも、その頃だ。

 それより以前に、私の親が雇っていた使用人の子どもが、目の前に居るクロードだった。とにかく急いで移動することになったため、お別れの言葉も言えなかった。

 父母は借金の返済に走る回ることになり、幼かった娘の私は、親戚の家へと預けられた。

 けれど、とある出来事が原因で、私は家出をすることになった。

 自ら働いて生計を立てられるようになった今では……馬鹿なことをしたと思って居る。

 ここまで生きて来られたのは、単なる奇跡だ。ローレンス侯爵のおかげで、私は誰にも騙されることなく普通の生活が出来ている。

「それよりも……クロードは、勇者になっていたのね。いつ、それがわかったの?」

 私は目の前にある肉を切り分けていると、クロードはその時を思い出しているのか、物憂げな表情になった。