そんな訳はないし、兄は高等部の最終学年だ。

「お前……負けたら、謝れよ」

 サザールは怒った声を出したけれど、試合再開の声がした。さっきの攻撃は、イエルクがあっという間に消してしまったから、見間違いだと思った人も多いのか、客席は怪訝な様子でざわざわとしていた。

「もちろんです。そちらも、同じようにお願いします」

 イエルクは私の隣で腕を軽くひと薙ぎしただけで、グーフォ側の放った攻撃魔法を受け止めていた。

「イエルク……ありがとう」

「いえ。ですが、ディリンジャー先輩。大丈夫ですか? 救護班が常時待機しているのは、怪我するのも前提の戦いだからですよ」

 イエルクは心配そうだった。救護班は完璧に治療してくれる上級白魔法使いが何人も居るので、どんなに怪我をしても即死しない限りは大丈夫だろう。

 私だって自分を狙った兄の魔法の刃のせいでオスカーが怪我をしなかったら、一人欠けたとしても、客席に座ったままだったかもしれない。

 けれど、私を庇ってくれたせいで怪我をしてしまったなら、私だって何もしないという訳にもいかない。