星空の小瓶

壮大。

気がつけば、いつもそばにいてくれた。
何度も「好き」って言ってくれた。
姿勢が良くて、たくましい背中。
背が高くて、カッコよくて、声も良くて。
コロコロと変わる表情が飽きなくて、特に屈託のない笑顔が眩しいくらいに素敵で。
めちゃくちゃ優しくて、何度も俺を助けてくれた。
頭が良くて、素直で、誰とでも仲良くなれて、みんなから頼られて。
一緒にいると安心できて、楽しくて。

プラネタリウムで手を繋いでも嫌がらなかった。
キスもしてくれた。
好きな香りが同じで、奇跡的に同じプレゼントを贈り合った。
二人なら、どんなことでもできる気がした。

好きなところを挙げたら、無限に止まらなくなる。

つまり、ひとことで言えば、大好きなんだ。

大好きだから、これ以上は一緒にいられない。
壮大を俺から解放してあげなくちゃ。
俺は今日までに、充分過ぎるぐらいのものをもらったのだから。

でも神さま、ごめんなさい。
もうひとつだけいいですか?
嫌な記憶を、彼との思い出に塗り替えたいんです。


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司の言い分は全く理解できなかったけど、冗談を言っているのではない、ということはわかった。
俺が司の過去を知ったら嫌いになるとでも、本気で思っているのだろうか。
舐めないでほしい。

「いやです」
「え」
「俺には、今の司は抱けない」
「あ……ご、ごめん、変なこと言って。あの、傘、貸すから……」
「待って」

立ち上がりかけた司の腕を掴み、ベッドにまた座らせた。

「俺は司が好き。大好き。超好き。何があっても、それは絶対揺るがない自信がある」
「……」
「俺がいつ司を好きになったか、知らないよな。引くなよ。なんと、入試の日だよ」
「え?」
「入試の時に前の席に座ってて、かわいいなって一目惚れした」
「ええ?」
「小さい背中が少し震えてて、緊張してるのかなって思って、ポケットの中に入ってたカイロを渡した」
「えええ?!」
「覚えてる?」
「覚えてる!俺……、大事な入試本番なのに試験会場の雰囲気とか周りの人の目が怖くて怖くて、もうダメかもしれないって震えてた。
でも後ろの席の人が何故かカイロをくれて、あったかい神さまみたいな人もいるんだなって思ったら、何とか落ち着けたんだ。あの時はいっぱいいっぱいで、顔もちゃんと見られなかったんだけど……」
「うん」
「ありがとう。俺は最初から、壮大に助けられていたんだな」

やっと笑顔を見せてくれた。俺の天使。

「入学式で司を見つけた時は、めちゃくちゃ嬉しかった。しかも同じクラスの後ろの席って、すんごい偶然じゃね?」
「……うん」
「もう絶っ対仲良くなろうって、最初から決めてた。同じ部活もやって、一緒に過ごす時間が増えるほど、またどんどん好きになる。
ほとんどストーカーみたいだけど、司の隣にいるためなら、俺は何でもする」
「……」
「隣にいられなくなくなるかも、って考えたら恐ろしくて、今まで告白の返事も聞けなかった。
……でももう逃げるのはやめる。司がおかしなこと言うから」
「……おかしなことって……」
「今日限りでいいとか、もう言うな。俺は司が好き。胸の傷も心の傷も、全て俺が癒やすから、これからもずっと隣にいてほしい。司はどう?返事聞かせて」

ドキドキドキドキ。心臓がうるさい。
言いたいことは全て言った。言わなくていいことまで言った気もするが、もういい。何も隠さない。
あとは審判が下るのを待つだけだ。

司は胸に手を置いて、目を閉じ、しばらく考え込んでいたが、やがて意を決したように、キッパリとした顔を上げた。

「……わかった。俺ももう逃げないよ」
「うん」

こちらを見上げた大きな瞳が、キラキラと瞬く星のように輝いて見えた。

「好きだよ、壮大。俺で良ければ、ずっと一緒にいてほしいです」
「う、わーーーーっ!!」

俺は叫び、司を力いっぱい抱きしめた。
司も俺の背に腕を回し、ギュッとし返してくれた。

「ふふ、壮大の背中だ」
「やばい、嬉しすぎる」

どちらからともなく二人の顔が近づき、自然と唇が重なる。
こうすることが、何億年前から定まっていた宇宙の摂理のように思えた。
抱き合い、笑いながらシーツの上をゴロゴロと転がり、一つの布団にくるまった。

雨雲はいつか通り過ぎ、漆黒の空には星が瞬き始める。それまで見えてはいなかったけど、確かにそこに存在していた星たち。
満天の星空の下、二人で手を繋ぎ、笑い合う。
そんな幸せな夢を見た。