「来たよ、沢城悠月(さわしろゆづき)会長」

 次の日の朝。ガチャリと音を立てて開いた生徒会室のドアから、佐倉が顔を出した。昨日コンビニのエプロンをしていた彼は、今日は制服にグレーのパーカーを着ている。それも校則違反だ。
 彼がきちんと制服を着ているところを見たことはない。

 「ああ、おはよう」
 「……おー、おはよう」

 ぎこちない挨拶を交わし、佐倉は物珍しそうに生徒会室のなかを見回している。

 初めてこの部屋に入ったのだろう。人が6人も入れば窮屈に感じるくらいの小さな部屋で、真ん中に大きな机、その周りに椅子が6つ置いてある。

 生徒会長と副会長、書記が2名と会計が1人の5人で今年の生徒会は活動している。生徒会室には、ノートパソコンやプリンターなど、一般の教室にはないような物が揃っているので、初めて生徒会室に入った生徒は、教室の中を見回しがちだ。

 「うちの校則は知ってるか?」

 早速本題に入ると、ため息を吐きながら正面の椅子に座った佐倉は、面倒くさそうに頭を掻いた。

 「知ってるよ。でもこっちにも色々あんだよ」
 「色々っていうのは、」
 「まあまあ、いいじゃん。これあげるから見逃してよ」

 そう言った佐倉がバッグの中から出したのは、濃厚ミルクキャンディ苺味。へえ、このシリーズ苺味もあったのか。赤いそのパッケージを見つめていると、佐倉がふっと笑う。

 「会長、意外と甘党なんだね」

 その悪戯っぽい笑顔に驚いているうちに、気づけば佐倉は生徒会室から出て行っていた。手元に残ったのは濃厚ミルクキャンディ苺味。

 クソ、逃げられた。

 でもこの飴は美味しそうだから見逃してやるか、と早速パッケージを開けて飴を舐める。ミルキーな苺味が口の中に広がって、悪くない、と呟いた。