クラスメイトの校則違反を発見したのは、塾の難関大学コースの英語の授業が終わり、家に帰ろうとしていた水曜日の21時だった。


 疲れた目を眼鏡の奥で閉じたり開けたりしながら、塾から家までの間にあるコンビニに寄った。甘いものを欲していたものの、塾の休憩時間に夕食である弁当を食べてしまったのでお腹が空いているわけではない。

 迷った末に選んだのは、濃厚ミルクキャンディと書かれた飴。小分けのキャンディがいくつか入っているその袋を持ってレジに向かうと、レジで立っていた店員から「うわ」という声が聞こえた。

 そこで初めて顔を上げて店員の顔を見て、俺の口からも「うわ」と同じ声が漏れる。

 根元が少し黒くなった金色の少し長めの髪に、耳に光るギラギラしたピアス。コンビニのイメージカラーのエプロンの胸元の名札には「佐倉(さくら)」と書いてある。

 「沢城(さわしろ)……」

 目の前の男が俺の名前を呼ぶ。彼は同じクラスで、出席番号が前後で、いつも俺の前の席に座っているから、後ろ姿は飽きるほど見ているけれど、真正面から彼の顔を見るのには慣れていなかった。

 改めて正面から見ると、顔はかなり整っているけれど、鋭い目つきが相手に圧を与えているように思う。金色の髪と、耳のピアスのせいだろうか。
 不良だという先入観のせいで、そう見えているだけなのだろうか。

 「……うちの学校、バイトは禁止だったと思うけど」

 ミルクキャンディの袋をレジに通す佐倉の手元を見ながら、呟く。ごつごつした大きな手がポップなミルクキャンディのパッケージと馴染まない。

 「お会計、330円っす」

 無視してやり過ごそうとしてるな。財布の中から330円を出して、トレーに乗せる。
 佐倉は手際よくレジを操作して、「ありがとうございましたー」という気だるげな挨拶とともにレシートを俺の手に乗せた。

 「佐倉凪(さくらなぎ)、明日朝イチで生徒会室に来い」

 レシートと商品を受け取り、佐倉の目を見てそう伝えると、佐倉は一瞬目を逸らして、ため息を吐いた。

 「何でよりによって生徒会長に見つかるかな……」

 小さな呟きに、そうだな、それは不運だったな、と心の中で返事する。けれどこっちだって見てしまったのであれば、生徒会長として見逃すわけにはいかない。


 コンビニを出る時にちらりと佐倉の方を見ると、眠そうにホットスナックの棚をぼーっと眺めていた。