今言わなければきっと後悔する。
ホームルームが終わり、慌ただしく動き始めた教室の中で河上透(かわかみとおる)は、強く感じた。
　僕は居残りの課題を出す手を止めて、楓が行ってしまう前に朝のことを謝ろうとタイミングを模索する。立花楓(たちばなかえで)は優しい人間だ。きっと明日には何事もなかったかのように明るい笑顔を僕に向けるだろう。彼女の好意に甘え同じような日常を描く、僕はそんな生活を望みたくなかった。
「楓行くよー」
　僕がグダグダしているうちに楓と同じ陸上部の栞里(しおり)が教室の入口から呼びかける。
　楓は「今行く」と返事をしながら慌ただしく荷物を背負い始めた。
謝るなら今しかないと決心し、口を開くが言葉が出てこない。肝心な時に言葉にすることが出来ない、僕の悪い所である。
　クソこんな簡単なことも言えないのかよ､､､
自分の情けなさに嫌気がさす。
「透！！」
楓が栞里の所へ向かいかける途中で足を止め、こちらを振り返った。
「私はあの約束諦めてないからね」
少し考えるような顔をしてからそれだけ僕に伝えて部活へと向かっていった。
取り残された僕は、彼女の幻影を追うかのように1点を見つめる。
約束、、何かしたことがあったっけ、、、