そのあと、店を出て街を散策していると、里山の足がキャンプ用品のショップの前で立ち止まった。どうやら気になるものがあるようで、店内へ。
「最近、キャンプにハマっててね」
たくさんあるシュラフを見ながら里山が言う。
「ふうん。僕もキャンプよく行くよ」
「まじで?海老沢くんも?」
「里山くんはさ、流行りに乗せられてるだけじゃないの?僕は子供の頃から好きだから、キャリアが違うよ」
「うっ…確かに始めたのは最近だけど、これほどハマってるのは珍しいんだよ」
ムキになる里山。キャンプ用品を色々見ながら、設営のハプニングなど話して盛り上がる。お互い競うように話をしているうちに、そのうち一緒に行こうか、なんて話まで。

それからだんだんと里山自身に興味が湧き、その日以降、たまに会ってご飯に行ったり遊びに行くようになった。
一緒にいるようになると、里山は僕らとそんなに変わらないってことに気づいた。確かに好みは違うけど。里山の顔がいいってだけで、僕は無意識に僻んでたのかな。

映画を観にいかないか、と僕から里山を誘ったのは先週。リバイバル上映している洋画を観たくて。
里山を誘う前に岡田に声をかけたけど、断られてしまった。最近付き合い悪いなあと思っていたら何と彼女ができたらしい。

座席数はあまりないシネコン。しかも平日の十九時からの上映なので、観客は少ない。
「座席、選びたい放題だね」
「ラッキー」
一番いい場所に座り、僕らは上映されるのをワクワクしながら待った。
今日の洋画は昔、グラミー賞にノミネートされた名作。ヒューマンドラマでいつか映画館で観てみたいと思っていたんだ。

ブザーが鳴り、暗くなった館内。上映中、僕は里山の存在を忘れて無茶になって観ていた。
そして、ストーリーのクライマックスにきたとき、感動して僕は思わず泣いてしまった。
僕は怖い時も泣いてしまうけど、感動したときもぼろぼろに泣いてしまう。小さい頃からそんな僕を見ている姉は『こっちの涙はちっとも恥ずかしくないんだから、隠さないでいいのよ』と言われたことがある。
そのまま泣いていると、肘掛けに置いていた右手にそっと里山がハンカチを置いてくれた。僕は驚いて里山の横顔を見た。でも里山は前を向いたまま。
僕はまた前を向き、ハンカチを使わせてもらう。そして右手を再び肘掛けに置くと、里山が手を重ねてきた。僕はその手を退けることなく、そのまま上映が終わるまで里山の手の温もりを感じていた。