彼が何故追っかけてくるのか分からないし、何故僕も逃げてるのか分からない。そうして十分くらい走って、もう僕はハアハアと息が切れてその場で立ち止まってしまった。久しぶりに全力疾走したから、息が……
「ようやく止まったあ」
 背後から声がして振り向くと、僕ほどではないけど息を切らしたイケメンバイト君が立っていた。二人で顔を合わせ、先に笑ったのは彼の方。
「何で逃げたの」
 僕もつられておかしくなってきて、笑う。
「き、君こそ何で声かけて追っかけてきたの」
 すると彼は僕の手を突然握った。うひゃ、汗があ!
「だって! 名前教えて欲しくて」
「はあ?」
「君のその可愛い顔が忘れられなくて! 一目惚れなんだ!」

 引きつる僕の顔。赤面するイケメンバイト君。そして足を止める周りの人達。一瞬、時間が止まる。 

 こうして僕、 海老沢達也(えびさわたつや)とイケメンお化けバイト君の 里山健太郎(さとやまけんたろう)の関係ご始まった。

***

「お前あのイケメンから告白されたんだって?」
 数日後。学食でカレーを食べていると、突然岡田に言われて危うく吹き出しそうになった。
「何でそれを!」
「たまたま見た奴がうちの学部にいてさあ。一目惚れされたとか」
 誰だよ! 言いふらしたやつは!
 僕が頭を抱えると岡田がご愁傷様、と呟いた。
「んで? 名前聞いた?」
「里山だって。勝手に自己紹介してきた」
「へー。何でもめちゃモテるらしいぜ。さっき見ていた奴がそう言ってた。いつも合コンで一番人気だったらしい」
 そんなイケメンが何で僕に一目惚れなんて! しかも男なのに……
「何で向こうはお前のこと、知ってたの?」
 僕はあの日のお化け屋敷での出来事、かけっこのあと里山が僕に言ってきたことを岡田に話すと笑いを堪えながら頷いた。
「可愛い、ねぇ。まあ分からないこともないな。海老沢さ、目がでかい上に背が低いからハムスター系だもんな」
「ううう」
 ハムスターみたいだと言われたのは実はもう何度もあるのだ。姉を筆頭にクラスメイトだったり、姉の友人だったり。
「それで? どうすんの? 連絡先交換させられたんじゃないの?」
「うわ、怖ッ! 何で知ってるの」
「そりゃ一目惚れした相手が目の前にいるっていうのに、逃すもんかよ」
 一瞬目が光る岡田にうわあ……と俺は思わず身震いをした。