あんなイケメン、知り合うことなんてもうないんだろうなーと思っていた翌日。
 何と、また出会ってしまったのだ。

 今日の授業は二時限で終わり。バイトもないし、さて何しようかななんて思いながら歩いていると背後から友人の岡田に声を掛けられた。 
「海老沢、今日バイトない日だろ? うちで新しいゲームしねぇ?」
「おぉいいねぇ」
 高校生からの付き合いの岡田とは、いつもこんな感じにつるんでいる。岡田もまた彼女がいない。
 大学の裏にある道を歩きながら、蝉の合唱を聞く。そしてその蝉の鳴き声の他に聞こえたのは女の子たちの楽しそうな声。その声はうちの大学ではなく、この細い道路の先にあるもう一つの大学のグラウンドから聞こえた。
 この街にはなぜか二つの大学が道を挟んだ場所に向かい合うように存在している。あちらは国公立大でインテリな学生が多い。以前向こうの大学と合同で合コンをした友人に聞いた話によると、向こうの奴らに食いつく女子ばかりだったという。
 なーんとなく、劣等感みたいなモヤモヤがあるわけ。それは本当にどうしようもないものだけど。
「今日は一段と声がすごいなあ」
「ま、俺らには関係ないしな」
 間違いないと笑いながら横断歩道を渡る。ちょうど向こうの大学の正門を横切ろうとした時。チラッと見えたのは数人の女子に囲まれた男。
 モテモテだなあと見たときにあっと思わず声を出してしまった。そして向こうの奴もこっちに気がついてしまったのだ。
 そこにいたのは、昨日のお化け屋敷のイケメンバイト君だった。やばっと顔を背けたものの、イケメンが大きな声で呼ぶ。
「おーい!」
 ああっ、呼ぶなよ! ばかっ。
 岡田がキョトンとしているのが分かる。恐らく向こうの女子たちも同じような顔をしているだろう。
「なあ、お前あのイケメンと知り合い? めっちゃ手を振ってくるけど」
「し、知り合いじゃ……」
 たたたっと音がして嫌な予感がした。女子たちを無視して、イケメンがこっちに走ってきたのだ。やばいっ。俺は反射的に逃げてしまった。
「お、おい! 海老沢っ!」
岡田、ごめんっ。

 走っていると背後で足音が聞こえてきたので振り向くと、何となぜかイケメンバイト君が追っかけてきていた。なんで、なんでー?
「ちょっと待ってよ!」
「やだよ!」