話を聞いてみると、彼は先週からあのお化け屋敷でバイトをしているらしい。人を驚かすのは苦手だけど、元々バイトをしていた友人が体調を崩していま、代理なのだという。
「君が泣いてたし、腰を抜かしてたから申し訳なくて」
 ちょうどバイトの時間が終わり慌てて追っかけてきたという。
「いやでもそれは僕が勝手に驚いただけで」
 身なりの割に真面目な彼に、僕が慌てると姉が突っ込んできた。
「そーよ。そもそもコイツが弱虫なのがいけないんだから、君は気にしなくていーの!」
「姉さんっ」
「ママー、綿菓子食べたい!」
 結海ちゃんが姉の浴衣を引っ張り、駄々をこねはじめた。そう言えばこのベンチでもう三十分近く休んでいた。結海ちゃんは夜店に行きたいのを我慢してくれてたんだろう。
「姉さん、二人で回ってきなよ。僕はもう少ししたら、さきに戻るから」
「そう? ゆっくり体休めたら気をつけて帰るのよ。結海、じゃあ行こうか」
 姉は浴衣を掴んでいた結海ちゃんの小さな手を握ると、結海ちゃんはひまわりみたいな笑顔を見せた。
「わーい! たっくん、お化けのお兄ちゃんバイバーイ」
 手を振りながら二人は人混みの中に消えて行った。あとに残されたのはイケメンのバイト君だ。何を話せばいいかわからず、とりあえず立ち上がろうとしたら、イケメン君が僕の体を腕で支えてくれた。フワッと汗の匂いがする。
「まだゆっくりした方が」
「いやっ、もう大丈夫」
 実際には少しまだゆっくりしたかったけど、気まずくていたたまれず、僕は早くこの場から立ち去ろうとしていた。
「あの、僕はたまたま驚いただけだし、でもあのタイミングとメイクとか、めっちゃお化けのバイト向いてるよ! だから気にしないで!」
 お化けが向いてるなんて、何だそりゃと自分でツッコミを入れながら彼を見ると、ようやく笑顔になってくれた。
「そう……?ありがとう」
 僕の体を支えていた腕を離す。やれやれ、イケメンに抱きしめられるのって同性でもドキドキするもんだな。
もう一度彼の顔を見る。
 スッと通った鼻筋に、二重の瞼。目の下のほくろが二つあって特徴的だ。しかしずっと顔を見ておくわけにもいかない。僕は顔を背けて、声をかけた。
「もう、大丈夫だから。じゃあ」
「あ……うん」
 まだ何か言いたげな彼から逃げるように、僕は手を振りその場から立ち去った。