ヒソヒソときょうだい喧嘩をしていると、先が行き止まりになっていてポツンと小さな机が真ん中にあった。そして、お札が貼ってある箱が置いてある。
「さっき入り口でおねーさんが言っていた箱かなあ? この箱の中の鍵を持って帰るんだよね!」
 結海ちゃんがトトト、と近寄る。いやまて、それ絶対何か出てくるフラグだろ……!
「結海ちゃん、まっ……」
 僕がそう手を伸ばした瞬間、結海ちゃんはお札を剥がして箱を開けてしまった。
 何か出てくるッ!と目を瞑り、数秒……何も起こらない。僕は恐る恐る目を開ける。
「何も起こらないじゃない」
 姉が不満げに言ったその時。

 姉と僕の間に突然割り込んできたのは、血糊をつけた化け物!!
「ヒ……!」
 声にならない声。僕は思わず身体をのけぞらして、その場にペタンと座り込んでしまった。
「わあ! お化けー!」
 結海ちゃんの嬉しそうな声の後に続く、姉の慌てた声。
「ち、ちょっと達也。大丈夫?」
 何と俺は泣きながら腰を抜かしてしまい、その場から動けなくなってしまった。

***

「ほんっとにアンタは怖がりなんだから……」
 姉は弟の情け無い姿にため息をつきながら、ペットボトルのお茶を渡してくれた。
「たっくーん、大丈夫? まだお目目赤いよぉ?」
 六歳児の結海ちゃんにも慰められる始末。とほほ。
 腰を抜かした僕はスタッフの人に抱えられ、お化け屋敷の隣にあるベンチに座らされた。たまにこういうお客さんがいるらしく、スタッフの人が慣れていたようだ。
「もう大丈夫だよ、ごめんね結海ちゃん」
結海ちゃんのツインテールの頭を撫でていると、突然僕の前に人影が。

「?」
 立っていたのは背の高い、僕くらいの年齢の男の子。マッシュボブで片耳にピアスをしてるその子は、今流行りのアイドルグループのメンバーに似てるくらい、イケメン。
「知り合い?」
 姉が僕に聞いてきた。僕は首を振るが、その子は僕の前に来て、突然頭を下げてきた。
「あの……すみませんでした!」
「は?」
 見ず知らずのイケメンに突然謝られて、僕は混乱した。姉も結海ちゃんもキョトンとしている。
「えっと……」
 僕が恐る恐る話しかけると、彼は頭を上げて僕を見る。うわー、イケメンさん目の下のほくろがセクシー。しかも口紅つけてるのかな。唇もほおも何だか赤い。それにしても額の汗がすごいけど、そんなに暑い?
「さっき、驚かせてしまって! まさかあんなに驚くなんて思わなくて」
 それを聞いてピンと来たのは、姉の方だった。
「君、もしかしてお化け屋敷のお化けくん?」
「お化けー!」
 結海ちゃんが嬉しそうにピョンピョン跳ねる。ええ? この子が?
「こんなにイケメンじゃなかったよ」
「化粧してたんでしょ、ほら口紅とか血糊残ってる」
 まじまじと彼の顔を見ると、確かに血糊のようなものがあちこちに残っていて、彼は顔を慌てて手で擦っていた。