夏に出会って秋に付き合い始めた僕ら。秋も深くなった頃、二人で秋祭りに出かけた。手を繋ぎたい、と言い出したのは里山からだった。
夜だし人混みに紛れたら分からないだろうと思い、里山の差し出した手を握って歩く。

数日前、結海ちゃんが秋祭りに一緒に行きたがっている、と電話で姉から知らされた。だけど僕は里山と約束していたからやんわり断ると、『結海の誘いを断るなんて、あんたにも恋人できたのかしら?』と姉に鋭いツッコミを受けて僕は半笑いした。
電話の向こうからは、一緒に行けないことを知った結海ちゃんが『たっくんもう嫌い!』と大声をだしていた。ごめんよ、結海ちゃん。

一緒に歩きながら、チラッと里山を見る。こんなかっこいい奴を僕が独占していいなんてまだ信じれない時もある。だけど、そんな時は里山が何故か気がついて、抱きしめてくれるから僕は安心するんだ。

「おーい、海老沢」
自分を呼ぶ声がして振り向くと、岡田と隣に女の子がいた。僕は慌てて手を離そうとしたが、里山はギュッと握り離さない。
岡田は近寄ってくると、手を繋いだまま硬直している僕を見て苦笑いした。
「デート中だった?お邪魔してごめんなあ、俺の彼女紹介したくてさ」
岡田はヘヘッと鼻をかきながら隣の女の子を紹介してくれた。てか、岡田のスマホで何度も見るようにいわれたけどな…
「高原悠美《たかはらゆうみ》です、初めまして」
結海ちゃんと同じ『ゆうみ』。それだけで何だかホッとしてしまった。岡田より少しだけ背が高い彼女。確か岡田から告白してオッケーもらったって言ってたっけ。
「そっちは?自己紹介してくれないのかよ」
ニヤニヤしながら、岡田が言う。初対面の彼女の前で紹介するのは若干勇気がいるけど…。
チラチラと高原さんは僕らを見ながら目を輝かす。里山のイケメンに目が眩んでるのだろうか。
「僕は海老沢達也です。いつも岡田と連んでるんだけど…聞いたことあるかな?」
「ええ。とても仲良しさんですよね」
彼女はふふっと笑いながら頷く。
「こっちは、里山健太郎。ええと…僕の恋人です」
そう言い切った時、里山がさらに手を握る。痛いよ!その様子を見ていた岡田と彼女は顔を合わせ笑っていた。
「ふたり、お似合いですね!」
高原さんがそう言うと里山はありがとう、と礼を言った。

「さっきは恋人って言ってくれて、嬉しかった」
岡田たちと別れ、二人で屋台を回ってると里山が言ってきた。たこ焼きを食べながら僕は答える。
「岡田は知ってたし、何より…あの子が里山を見て目を輝かしてたから…」
「なあに、また不安になってたの?」
頭をポンポンと撫でられて、赤面してしまう。ああこれから何度も不安になってしまうのだろう。いつか自信がつく日は来るんだろうか。
「大丈夫だよ、安心して」
今日もまた里山が僕の不安を取り除いてくれる。その笑顔に、僕はまた胸が熱くなってしまった。

「あ、あれ入ろうか」
里山が指差した先にあったのは、お化け屋敷。僕は首を左右にふり、里山を軽く睨んだ。
「苦手だってば」
「まあまあ」
繋いだ手を引っ張られて、そのままお化け屋敷へと引きずられていく。
「きゃあ!」
「わああああ!」
ああ、悲鳴が聞こえるじゃないか。嫌だってば!
「大丈夫、俺がついているから、ね」
里山は嬉々として受付で二人分のチケットを買う。いや、お前がいてくれても、怖いものは怖いんだよ!

その後、声が掠れるほど叫んでしまい、屋敷を出た頃には涙でぐしゃぐしゃになってしまった僕と、その泣き顔を嬉しそうに隣で見ていた里山の姿があったのは言うまでもない。
   
【了】