『合コンなんか、行くなよ…』
自然と出てしまった言葉。ポタポタと流れてしまう涙。
『泣かないで、海老沢くん』
声の様子でバレたのだろうか。
『泣いてない!』
『嘘だ。ねぇ、俺は海老沢くんの泣き顔好きだけど俺のことで泣かれるのは嫌だよ』
まるで子供を諭すかのようにゆっくりと聞こえる里山の声。
『…お前が合コン行くの、ヤダ』
『そうか、嫌なんだね。どうして?』
『女の子と一緒に過ごすから。僕より可愛いくてフワフワしてるし』
『うん。でも俺は海老沢くんの方が可愛くてたまらないよ。女の子たちより何倍もね』
『ならなんで合コンなんて行くの』
『友達なら、合コン止めないでしょ?』
鋭い里山の言葉。ドキンと心臓が飛び跳ねる。それは多分もうわかってるんだろう。
『女の子と付き合って欲しくない?それはどうして?』
質問攻めの里山に、いつのまにか涙はひいていた。そのかわり胸の動悸がすごい音を立てている。ああもう…認めてしまうしかない。
『…里山にそばにいてほしいから』
『最高だけど、回りくどいなあ。つまり…どういうことかな?』
…里山って、こんなに性悪だったっけ?
『…里山が好きだから』
呟くように、そう言う。もうそれしか考えられない。友達としての独占欲なんかじゃない。
『やっと聞けた』
里山の嬉しそうな声。
『もう俺帰るから!また後連絡する!』
またあと連絡する、なんて言いながら連絡のないままに里山は僕の部屋に来た。
電車はもうないからタクシーで来たのだろう。夜中にチャイムが鳴って若干びっくりして、ドアスコープを覗いたら里山がいたからさらに驚いた。
「里山、何で…」
ドアを開けた途端、里山が思い切り僕を抱きしめてくる。ふんわりとアルコールとタバコの香りがした。
「大好きだよ。俺、ほんとに海老沢くんがいないとダメなんだ」
熱烈な言葉に耳まで赤くなる。
「ちょ、里山ッ」
「本当に好きになってくれたの?俺のこと」
顔をこちらに向けて至近距離で目が合う。うう、近すぎて、僕は直視できない。
「…だと、思う」
おずおずと、里山の体に腕を伸ばして抱き合う形になると里山はさらに強く僕を抱きしめた。
「ぐぇ」
「ありがとう、マジで嬉しい」
そう言うと少し腕の力を緩めて再度顔を近づけてくる。あ、と思う間もなく里山の唇が重なってきた。少しだけカサついた唇。
僕は生まれて初めて、男とキスをした。でも、嫌な気はしなかったんだ。それは里山だったから。



