「海老沢ァ」
呼ばれた声に気づいて、顔を上げると目の前に岡田がいた。昼休み、学食でご飯を食べていた。
「あ、なに?」
「お前大丈夫か?最近よくボーっとしてるけど」
岡田の鋭い指摘に、苦笑いするしかなかった。あれから数日間。里山は何もなかったかのように、いつも通りメッセージが来たり、遊んだりしている。何も変わることなく。ただ変わったとするなら、僕が意識してしまっていることだ。
「大丈夫だよ、そう言えば彼女とはどうなの?」
話題をそらそうと、岡田の彼女のことを聞くと、鼻の下を伸ばしながら、嬉々として彼女の可愛いところ、性格の良いところを話してくれる。
「いやー、恋人ができると景色も違うもんな!キラキラしてるぜ」
「あっそ…」
岡田の手元のラーメン、のびるよと思いながらも僕は浮かれてる友達の恋愛話を聞いていた。

「お前はどうよ。あのイケメンくん」
急に振られて思わずスプーンを落としてしまった。
「何だよ突然」
テーブルに置いてある新しいスプーンに取り替えて僕は口を尖らせた。
「最近よく会ってるじゃん」
「一緒に遊んでるだけだから」
「え?惚れられてるのに?」
「男同士じゃん」
「そっかー。俺は気にならないけどなァ。高校の時のダチにもそういうやつ、いたし。何よりあのイケメンに惚れられるってすげえ」
「あいつ、顔がいいだけじゃないよ。性格も優しいし、面白いし」
それから岡田に里山のいいとこを熱弁していると、岡田が『ラーメン伸びそう』と僕の話を遮った。
自分が話してる時は夢中だったくせに!

おそらくのびたであろうラーメンを食べ終え、スープまで飲み干した岡田は満足そうだ。僕はまだ手元の麻婆豆腐を食べている。
「なんだよ、海老沢。そんなにあのイケメンくん褒めるってことは気に入ってるんだろ」
「…気に入ってるというか話しやすいし、一緒にいて楽しいし」
「ふーん。それでもお前の中じゃ友達止まりなんだな」
麻婆豆腐を掬いあげていたスプーンを途中で止める。岡田の鋭い言葉にまたあの胸の痛みが復活した。
「昨日さ、合コン行ってたやつが噂してたよ。またあのイケメンが来たって」
「…へ」
「あー腹一杯!トイレ行くからまたあとの講座でな」
そう言うと岡田は立ち上がり、お盆をもって行ってしまった。
里山が合コンに?僕は呆然としていた。でも僕には止める権利なんてないし、里山が次の出会いを求めてるのを止めるわけにもいかない。
なのに何で胸がジワジワするんだろうか。