それは響達が高校二年に進級する直前の春休みのこと。
「今日は午後二時半に四月から入学する新入生達が制服採寸に来ます! 音楽室の窓を開けて新入生に向けて合奏してアピールしましょう!」
部活開始時の全体連絡で四月から三年生になる部長がそう張り切っていた。
(新入生……もうそんな時期か。俺も四月から高二なんだな)
響はぼんやりとそんなことを考えていた。
外のグラウンドから聞こえる運動部の声も心なしか大きい気がする。
今日活動する部活はどこも張り切っているらしい。もちろん、吹奏楽部もである。
この日の連絡を聞いた後、響は個人練習に向かう。そしてあっという間に午後二時半近くになったので、響は音楽室に戻るのであった。
♪♪♪♪♪♪♪♪
音楽室に戻ると、皆思い思いに音出しをしたり談笑したりしていた。
すると、響の耳にアルトサックスの音が入って来る。
セレナがアルトサックスを吹いていたのだ。
(ん? この音……)
響はセレナの音に引っかかりを覚えた。
「セレナ、最後のCの音(※ドの音)、ピッチおかしくない? 小日向くんもそう思うよね?」
オーボエの小夜にそう話を振られ、響は頷く。
絶対音感のある響は微妙な音の違いも聞き分けることが出来る。
「マジか。何か今日調子悪い」
セレナは小夜にピッチの悪さを指摘され、もう一度同じ音を吹く。
「あ、今ピッチ合ったよ、セレナさん」
「お、サンキュー小日向。流石は絶対音感の持ち主」
セレナはニッと明るく笑った。
「おーい! 新入生もう来てるみたいだぞ!」
そこへ、徹の声が響く。
窓を開けて外を確認しているようだ。
響も窓際に行き外に目を向けると、中庭にちらほらと新入生の姿があった。
中学校の制服を着用しているので、様々な制服姿の新入生が見られて新鮮だった。
中庭に咲いている桜は満開である。まるで新入生を歓迎しているかのようだ。
「可愛い子入って来るかな?」
「風雅、相変わらずだな」
いつの間にか響の隣で窓の外を覗いていた風雅。
響はそんな風雅に苦笑する。
「朝比奈、今度は新入生食い荒らすの?」
「ちょ、セレナ言い方」
一年間同じクラスだっだセレナと風雅。やり取りに遠慮が見られない。
「新入部員、パーカスに十人くらい欲しいな」
「徹、それは欲張り過ぎだろ。今の状況なら五人で足りる」
新入部員の人数を欲張る徹に対し、蓮斗は呆れたような表情だ。
「パーカスは割と人数足りてるよね。今人数欲しいパートってどこだろう? オーボエ、ファゴットのダブルリードは少人数でこと足りるし」
小夜が少し考える素振りをする。
オーボエとファゴットは二枚のリードを重ね合わせて使用する。そして人数も少なめなのでダブルリードパートとしてまとめられるのだ。
「ユーフォは先輩が抜けたらキツイから人数欲しいな。後は……フルートの経験者」
蓮斗は苦笑する。
「確かに、フルートの経験者は欲しいよね。私達の学年も先輩達も全員初心者だし」
小夜はフルートのメンバーに目を向けて少し心配そうな表情である。
そこへ、吹奏楽部顧問がやって来たので全員席に着く。
そして、制服採寸に来た新入生にアピールする為に合奏が始まるのであった。
この先、幼馴染で初恋相手の奏と再会すること、奏がフルートを辞めてしまったことなど、この時の響は予想だにしていなかった。
♪♪♪♪♪♪♪♪
(あ……吹奏楽部かな?)
制服採寸に来ていた奏は、聞こえて来た音楽にふと足を止める。
クラリネット、サックス、トランペットの華やかな主旋律。ホルン、トロンボーン、ユーフォニアムが主旋律を支えるように助奏している。そしてチューバやパーカッションなどの低音、ドラムの安定感。どのパートもバランスが良く、比較的レベルが高いと感じた。
しかしその中で、奏は少し引っかかりを覚えた。
(フルートの音……掠れてる。全員初心者かな?)
奏は吹奏楽部の演奏が聞こえる方に目を向ける。
(……私が入部したら、即戦力になれるかな?)
奏は自分が音宮高校吹奏楽部に入部した場合を想像する。
しかし、すぐに中学一年生の冬にあったフルートコンクールで棄権してしまった時のことを思い出してしまう。
(……考えても無駄。私はもうフルートはやらないし、音楽も大嫌い)
奏は演奏が聞こえる方から視線を外した。
(大体、それなりの大学に進学してそれなりの仕事を見つける為に音宮高校を選んだのだから)
奏は軽くため息をついた。
「奏、早くー!」
不意に、前を歩く彩歌に呼ばれた。
「うん、彩歌。今行くね」
奏は小走りで彩歌の元へ向かった。
入学式後、幼馴染の響と再会すること、そして再びフルートを始めることを、この時の奏はまだ知らないのであった。
「今日は午後二時半に四月から入学する新入生達が制服採寸に来ます! 音楽室の窓を開けて新入生に向けて合奏してアピールしましょう!」
部活開始時の全体連絡で四月から三年生になる部長がそう張り切っていた。
(新入生……もうそんな時期か。俺も四月から高二なんだな)
響はぼんやりとそんなことを考えていた。
外のグラウンドから聞こえる運動部の声も心なしか大きい気がする。
今日活動する部活はどこも張り切っているらしい。もちろん、吹奏楽部もである。
この日の連絡を聞いた後、響は個人練習に向かう。そしてあっという間に午後二時半近くになったので、響は音楽室に戻るのであった。
♪♪♪♪♪♪♪♪
音楽室に戻ると、皆思い思いに音出しをしたり談笑したりしていた。
すると、響の耳にアルトサックスの音が入って来る。
セレナがアルトサックスを吹いていたのだ。
(ん? この音……)
響はセレナの音に引っかかりを覚えた。
「セレナ、最後のCの音(※ドの音)、ピッチおかしくない? 小日向くんもそう思うよね?」
オーボエの小夜にそう話を振られ、響は頷く。
絶対音感のある響は微妙な音の違いも聞き分けることが出来る。
「マジか。何か今日調子悪い」
セレナは小夜にピッチの悪さを指摘され、もう一度同じ音を吹く。
「あ、今ピッチ合ったよ、セレナさん」
「お、サンキュー小日向。流石は絶対音感の持ち主」
セレナはニッと明るく笑った。
「おーい! 新入生もう来てるみたいだぞ!」
そこへ、徹の声が響く。
窓を開けて外を確認しているようだ。
響も窓際に行き外に目を向けると、中庭にちらほらと新入生の姿があった。
中学校の制服を着用しているので、様々な制服姿の新入生が見られて新鮮だった。
中庭に咲いている桜は満開である。まるで新入生を歓迎しているかのようだ。
「可愛い子入って来るかな?」
「風雅、相変わらずだな」
いつの間にか響の隣で窓の外を覗いていた風雅。
響はそんな風雅に苦笑する。
「朝比奈、今度は新入生食い荒らすの?」
「ちょ、セレナ言い方」
一年間同じクラスだっだセレナと風雅。やり取りに遠慮が見られない。
「新入部員、パーカスに十人くらい欲しいな」
「徹、それは欲張り過ぎだろ。今の状況なら五人で足りる」
新入部員の人数を欲張る徹に対し、蓮斗は呆れたような表情だ。
「パーカスは割と人数足りてるよね。今人数欲しいパートってどこだろう? オーボエ、ファゴットのダブルリードは少人数でこと足りるし」
小夜が少し考える素振りをする。
オーボエとファゴットは二枚のリードを重ね合わせて使用する。そして人数も少なめなのでダブルリードパートとしてまとめられるのだ。
「ユーフォは先輩が抜けたらキツイから人数欲しいな。後は……フルートの経験者」
蓮斗は苦笑する。
「確かに、フルートの経験者は欲しいよね。私達の学年も先輩達も全員初心者だし」
小夜はフルートのメンバーに目を向けて少し心配そうな表情である。
そこへ、吹奏楽部顧問がやって来たので全員席に着く。
そして、制服採寸に来た新入生にアピールする為に合奏が始まるのであった。
この先、幼馴染で初恋相手の奏と再会すること、奏がフルートを辞めてしまったことなど、この時の響は予想だにしていなかった。
♪♪♪♪♪♪♪♪
(あ……吹奏楽部かな?)
制服採寸に来ていた奏は、聞こえて来た音楽にふと足を止める。
クラリネット、サックス、トランペットの華やかな主旋律。ホルン、トロンボーン、ユーフォニアムが主旋律を支えるように助奏している。そしてチューバやパーカッションなどの低音、ドラムの安定感。どのパートもバランスが良く、比較的レベルが高いと感じた。
しかしその中で、奏は少し引っかかりを覚えた。
(フルートの音……掠れてる。全員初心者かな?)
奏は吹奏楽部の演奏が聞こえる方に目を向ける。
(……私が入部したら、即戦力になれるかな?)
奏は自分が音宮高校吹奏楽部に入部した場合を想像する。
しかし、すぐに中学一年生の冬にあったフルートコンクールで棄権してしまった時のことを思い出してしまう。
(……考えても無駄。私はもうフルートはやらないし、音楽も大嫌い)
奏は演奏が聞こえる方から視線を外した。
(大体、それなりの大学に進学してそれなりの仕事を見つける為に音宮高校を選んだのだから)
奏は軽くため息をついた。
「奏、早くー!」
不意に、前を歩く彩歌に呼ばれた。
「うん、彩歌。今行くね」
奏は小走りで彩歌の元へ向かった。
入学式後、幼馴染の響と再会すること、そして再びフルートを始めることを、この時の奏はまだ知らないのであった。



