響と奏が付き合い始めて少し経過したある日。
 響は奏の家の楽器部屋にいた。
「響くん、お待たせ」
 楽器部屋に奏が入って来た。
「いよいよだね」
 響はワクワクしながらクラリネットを持つ。
 奏もゆっくりとフルートを構えた。

 この日、響が幼い頃に音楽教室で聞いた曲でクラリネットとフルートの二重奏をするのだ。
 ずっと響が夢見ていたことである。

「じゃあ行くよ」
 奏の合図により、二人は演奏を始めた。
 柔らかで明るい響のクラリネットの音と、優雅で繊細な奏のフルートの音が重なり合う。
 響と奏らしい音である。

 幼い頃、響のピアノと奏のフルートの二重奏、そして現在、響のクラリネットと奏のフルートの二重奏。
 もちろん今の方が技術面を踏まえると上達している。しかし、楽しそうな様子は幼い頃と全く変わらない響と奏である。

 幼い頃に約束した、クラリネットとフルートの二重奏。
 その約束が果たされたことに、響はとても満足していた。

 響と奏、二人の音は鮮やかに絡まり合っていた。
 きっとこの先も、響と奏の音は続いていく。