君と僕の響奏曲

 借り人競争のお題で『好きな人』を引いた風雅。
 迷わず向かった先は彩歌が所属する一年三組のテント……ではなく、二年四組のテント。
「響、来てくれ!」
 風雅が指名したのは何と響。
「良いけど、風雅何引いたんだ?」
「まあ……な」
 きょとんとする響に対し、風雅はフッと笑う。そして風雅はそのまま響を連れて行く。

 更に風雅が向かった先は二年七組のテント。
「おお、いたいた。蓮斗、お前も来てくれ」
「……良いけど、風雅、お前のお題何だ? 響もいるが、複数人のお題とか聞いたことないぞ」
「何でも良いだろ」
 怪訝そうな蓮斗に対し、風雅は何も答えない。

 響、蓮斗を引き連れた風雅は、次に二年一組のテントへ向かった。
「徹、お前も来い!」
「ええ? 風雅、一体何だよ?」
 徹はヘラヘラ笑いながら風雅の所へやって来る。
「小日向と晩沢だけでなく昼岡も連れて行くとか、朝比奈一体どんなお題引いたの?」
 徹と同じクラスのセレナは笑いながら首を傾げている。
「それは秘密」
 風雅はニッと白い歯を見せ笑い、セレナにそう言うだけだった。

 風雅は響、蓮斗、徹の三人を引き連れて走る。いつもの吹奏楽部同学年男子メンバーだ。
 そして、ゴールにいる体育祭実行委員の生徒にお題と連れて来た人が一致しているかを確認してもらう。

「はい、二年四組の到着です。三人連れて来ていますがお題は……出ました! 『好きな人』!」
 マイクを通してグラウンド全体に体育祭実行委員の声が響く。
「おい風雅マジかよ!? そんなに俺のことを!? でも俺、恋愛対象は女子だぞ!」
 徹はニヤけながら風雅の肩を小突く。
「馬鹿、徹やめろ。だれもお前を恋愛対象だなんて言ってないぞ」
 風雅は笑いながら、そんな徹の肩をパンッと強く叩いた。
 すると徹は「(いって)え!」と叫ぶ。
 響と蓮斗は困惑したように半笑いしている。

 風雅の連れて来た三人を見て、皆爆笑したり黄色い声を上げたりなど、会場全体の反応は様々であった。

「このお題、『好きな人』って、どこにも恋愛対象として好きな人とは書いてない。それから人数指定もない。だから俺は部活仲間の男子を連れて来ました! 本当は吹奏楽部全員を連れて行きたかったんですけど!」
 マイクを渡された風雅はややおどけた様子で全体に向けて言った。
 すると体育祭実行委員の生徒も「なるほど」と納得する。
 他の生徒達も、その手があったかと目から鱗だったようだ。

「確かに、好きにも種類があるからな」
 蓮斗は砂埃で汚れたらしい眼鏡を体操服で拭きながら、納得している様子だ。
「じゃあ来年から結構このお題、逃げ道出来そうだな。今までこのお題があるせいで借り人競争出たくないって人多かったわけだし」
 響はハハっと笑う。

「あ、それと、吹奏楽部はもう一人一年に男子がいるけど、一年のテントが遠かったから連れて来なかっただけです! 律、お前のこと嫌いってわけじゃないからなー!」
 風雅は一年三組のテントにいる律に向かってそう宣言した。
 すると一年三組のテントから「はい! 分かってます!」と律の声が響く。
 それにより、再び会場全体は笑いに包まれた。

 結果、風雅は借り人競争二年生男子の部にて、三位でゴールした。
 風雅はチラリと一年三組のテントにいる彩歌に目を向ける。
 彩歌は風雅の視線に全く気付いた様子はなく、花音と話をしていた。





♪♪♪♪♪♪♪♪





 体育祭は、十五分の休憩に入った。

「彩歌ちゃん」
 食堂前の自動販売機にて、花音と一緒に飲み物を買っていた彩歌に声をかける風雅。
 彩歌はうざったそうに風雅を見た。
 風雅はチラリと花音に目を向ける。
「花音ちゃん、ちょっと彩歌ちゃんと話がしたいんだ。良いかな?」
「あ……はい。分かりました、朝比奈先輩。じゃあ、彩歌ちゃん、先に三組のテント戻ってるね」
 花音は何かを察し、意味深に微笑んでいた。
「あ、ちょっと、花音」
 彩歌は縋るように花音を引き留めようとしたが、花音は素早くその場を立ち去ってしまう。
「一体何なの?」
 彩歌は不機嫌そうに風雅を睨む。
 丁度今、風雅達がいる場所は運良く誰もいない。
「さっきの借り人競争、俺出てたんだけど見てくれた?」
「あんたが出てたってことは何か分かったけど、それだけ。でも、何か人選意外だった。あの後、浜須賀がクラスの男子からいじられてたけど」
 ムスッとしつつも、彩歌はそう答えてくれた。風雅の方に視線は合わせてくれない。
「そっか。まさか『好きな人』を引くとは俺も思ってなかった」
 風雅はハハッと笑った後、真剣な表情で彩歌を見つめる。
「本当は彩歌ちゃんを連れて行こうとした。だけど、彩歌ちゃんはあんな風に注目浴びるの絶対嫌だろうから、連れて行くのをすぐにやめた」

 容姿が良い(ゆえ)に、異性から言い寄られたり同性から嫉妬されて彩歌が嫌な思いをしたことは、文化祭の時に知った。おまけに風雅も容姿に恵まれて異性から言い寄られることが多い。だからもし今回彩歌を連れて行っていたら、風雅ファンの嫉妬により彩歌がまた嫌な思いをするだろうと判断したのだ。おまけにこうしたイベントで目立つことは彩歌も望んでいなさそうだと感じたのである。

「もしそんなことしてたら、その場であんたをぶっ飛ばしてた」
 ギロリと風雅を睨む彩歌。
 彩歌に睨まれることはもう慣れた風雅である。彩歌のその睨む表情すら、風雅は可愛いと思うのであった。
 
「俺、彩歌ちゃんが好きだ。友達思いなところや正義感が強いところとか、何もかも、全部。どうしようもないくらいに」
 真っ直ぐ、射抜くように彩歌を見つめる風雅。その声は、少し震えていたが今までにないくらい真剣だった。
 
 目を大きく見開き、彩歌は言葉に詰まる。
「彩歌ちゃん、別に返事は今じゃなくて良い。俺、いつまでも待つから」
 風雅の言葉に、彩歌は黙り込む。
「流石に百年後とかは俺もう死んでるけど」
 風雅は冗談っぽくおどけてみせた。
「じゃあ、彩歌ちゃん、俺、待ってるから」
 風雅はそう言い、彩歌の元から立ち去った。

「何それ。意味分かんないんだけど」
 一人取り残された彩歌は戸惑いながらも、風雅の後ろ姿を睨む。
 彩歌の頬は、真っ赤に染まっていた。