夏休みが終わり、新学期が始まった。
 奏達一年三組の生徒は、久々のクラスメイトの再会に喜ぶ者、怠そうな者など、新学期を迎える反応は様々だった。

「今日から新学期か。課題テストあるの面倒」
 彩歌は気怠げに机の上に突っ伏した。
 彩歌の席は、窓際の一番後ろである。
「でも彩歌、そう言いつつ結構点数取れるよね」
 彩歌の前の席に座る奏はクスッと笑っている。
「奏こそ、また学年主席でしょ」
「それはどうなるか分からないよ」
 奏は窓の外に目を向けた。

 太陽がギラギラとしており、外は暑そうである。実際彩歌と登校していた際も、暑さで体力がゴリゴリと削られていた。奏と彩歌、二人揃って日傘をさして、日焼けと眩し過ぎる日差しの対策をして登校したのだ。
 音宮高校は校則が緩いので、日傘も校則違反ではない。

 クーラーが効いている教室から出たくないなと思う奏であった。

 奏達の住む県の公立高校にはほとんどエアコンが設置されている。

「あー、(だっる)
 相変わらず机に突っ伏している彩歌はそう呟いた。
 奏はそんな彩歌の頭をポンポンと撫でるのであった。
 その時、奏に話しかける者がいた。

「あの、大月さん。そこ、私の席」
 ショートボブで奏よりも少し身長が高いが、小柄な女子生徒だ。小動物のような顔立ちで、控えめな声である。
「あ、ごめんね桜井(さくらい)さん。すぐ退くから」
 奏は席を立った。

 今まで座っていた席は、奏の席ではないのだ。
 奏の席は廊下側の列の真ん中だった。
 彩歌の席とは離れている。

「嘘!? 桜井花音(かのん)が!?」
 突然クラスメイトの大声が聞こえ、奏はピクリと肩を震わせた。
 机に突っ伏していた彩歌も煩いと言いたそうに顔を上げる。

 大声を上げた派手な見た目のギャルっぽい女子生徒は、複数の友人を引き連れて彩歌の前の席に集まる。
「ちょっと桜井さん、これどういうこと?」
 刺々しい声のギャル。
 ギャルは彩歌の前の席の桜井花音という生徒にスマートフォンを見せる。彩歌の前の席の生徒だ。
 恐らく写真を見せているのだろう。
 どんな写真かは奏の位置からは分からなかった。
「えっと……」
 花音は怒りを露わにしているギャルに対して怯んでしまったようだ。
「あんたと一緒に写ってる男子とはどういう関係?」
「彼、ずっとこの子が狙ってたんだけど」
 相変わらず強気で刺々しい口調のギャル。更に仲間も加勢する。
 どうやら色恋沙汰のようだ。

「馬鹿馬鹿しい」
 後ろの席で彩歌はボソッと呟いた。
 心底うざったそうである。
 奏は苦笑し、そんな彩歌の頭にポンと手を置いた。




♪♪♪♪♪♪♪♪





 翌日。
「うわ、来たよ桜井」
「えー、来なくて良いって」
「消えたら良いのに」
 教室でギャル達の大声が飛び交う。
 登校して来た花音はその言葉に俯いてしまう。

 先日の色恋沙汰により、ギャル達は花音を攻撃し始めたのだ。

 自分の席で荷物の整理をしていた奏は、その様子に表情をしかめる。
 そしてチラリと窓際の席の彩歌に目を向ける。
 彩歌はギャル達に対して明らかにイラついていることが分かった。
(私も許せないけれど、彩歌は人一倍ああいうことが嫌いで許せないよね)
 奏は中学一年生の頃の彩歌を思い出した。

 容姿に恵まれた彩歌は小学校高学年頃から色恋沙汰に巻き込まれて孤立していた。
 奏が彩歌と出会ったのは中学一年生の時で、同じクラスだった。
 その時も彩歌はその容姿(ゆえ)にクラスのボス的な女子生徒から睨まれて孤立していたのだ。
 悪口や嫌がらせは日常茶飯事だった。
 奏はそれを放っておけず、彩歌に話しかけた。
 それから、奏はボス的な女子生徒による彩歌に対する悪口を録音したり、その他いじめの証拠を収集した。そして彼女に証拠を突き付け、弁護士を読んだり警察に通報すると脅しをかけたのだ。
 奏は自分の家が地元で割と力を持っていることを知っていたので、弁護士や警察と協力したらボス的な女子生徒の未来を完全に潰すことが出来るのだ。
 奏が脅しをかけたお陰で、彩歌へのいじめはピタリと止んだ。

 彩歌はギロリと花音の悪口を言うギャル達を睨んでいる。
 かつての自分と同じような目に遭っている花音を放っておくことは出来ないし、ギャル達のような行為が許せないのだ。

(それならば、私もまた()()()()を使おうかな)
 奏はニヤリとほくそ笑んだ。





♪♪♪♪♪♪♪♪





 悪口から始まった花音へのいじめは数日で徐々にエスカレートしていた。
 クラスで孤立したり。ものを壊されたりしている花音である。
 一年三組の雰囲気も、悪くなりつつあった。

「奏、流石にあたしもう我慢出来ない。桜井さんのこと放っておけない」
 彩歌は怒りを露わにしていた。
「うん。私も。それに、()()十分(じゅうぶん)集まったから」
 奏はギャル達が言った花音への悪口が録音されたボイスレコーダーや、ギャル達が捨てた花音の私物の写真を彩歌に見せる。
「じゃあ、ちょっと暴れて来るか。奏、後方支援よろしく」
 彩歌はギュッと拳を握りニヤリと笑い、立ち上がった。
「任せておいて」
 奏はクスッと笑った。

 昼休みの一年三組の教室にて、これから一波乱ありそうである。