花火が終わり、片付けに移っていた。
 準備は金管楽器担当の部員達がやったので、片付けは木管楽器担当とパーカッション担当の部員達がやることになっている。
 
「じゃあ花火のゴミ捨てはジャンケンで負けた二人にお願いするよー」
 セレナの掛け声により、ジャンケンをした。
「おお、綺麗に決まったね」
 結果を見た小夜は面白そうに目を見開いている。
「じゃあゴミ捨ては奏と浜須賀よろしく」
 セレナが明るく笑いそう言った。
 ジャンケンに負けたのは奏と律だった。
「奏、早く戻って来てね」
「うん、分かったよ、彩歌」
 奏は彩歌にそう微笑みかけた。
 そして奏は律と一緒にバケツを持ち、ゴミ捨て場へ向かった。

「大月さん、そっちのバケツも持とうか? 多分重いでしょ」
 二人で歩く中、律は奏のバケツも持とうとする。
「でも、それじゃ何か悪いよ。私何も持たないことになるから」
 流石に何も持たないことになるのは気が引けた奏。
「だったら、スマホのライトで道照らして」
 爽やかで優しげな笑みの律。
「……分かった。ありがとう」
 奏はバケツを律に渡し、自身のスマートフォンのライトを付けた。
「道が暗いからさ、助かるよ」
 律は軽々と二つのバケツを持ち、奏のペースに合わせて歩いてくれた。

 ゴミの処理が終わり、バケツが空になったので帰りは奏もバケツを持っている。
「大月さんって小日向先輩と幼馴染なんだっけ?」
 律は興味津々な様子だ。
「うん。昔、同じマンションに住んでた。通っていた音楽教室も同じで、よくレッスン終わりにフルートとピアノの二重奏をしてた。当時は響くん、ピアノ習っていたからね」
 奏は夜空を見上た。
 夜空には星々が散りばめられている。
「大月さんってたまに小日向先輩のことを響くんって呼ぶよね」
 やや複雑そうに笑う律。
「あ、学校とか部活関連の時だから不適切だね」
 奏はハッとして苦笑した。
「何か、大月さんと小日向先輩の距離の近さを見せつけられてる感じで……嫉妬しちゃうよ」
 律の表情はいつもの爽やかさとは違い、少し余裕がなさそうである。
「……何で?」
 いつもとは違う律に戸惑う奏。
 律は足を止めた。それに伴い、奏も足を止める。
 
「だって俺、大月さんのことが好きだから」
 真っ直ぐ射抜くような律の視線が奏を捕える。
 
「え……」
 奏はまさか律から好意を寄せられているとは思っておらず、ただ戸惑うばかり。
(浜須賀くんが、私のことを……)
 律は夜空を見上げ、ゆっくりと話し始める。
「入学したばかりの頃はいつも天沢さんと一緒にいて、クールだったから近寄り難い感じの子なのかなって思ってた。でも、ハンカチを返してくれた時の笑顔を見て、何か良いなって思った」
 再び奏に目を戻す律。
 奏は一旦律から目をそらし、しばらくして再び律を見る。
「ごめんなさい。私、響先輩が、響くんのことが好きなの」
 奏は真っ直ぐ律を見て謝った。
「そっか。それは残念。まあ、分かってたことだけど」
 律は軽くため息をついた。
「浜須賀くん……私が響くんを好きだって……気付いてたの?」
 奏は少しドキリとした。
 もしかして、自分の気持ちが周囲に、特に響にも気付かれているのではないかと少し不安になってしまう。
「好きな人のことはよく見てるから、俺は気付いた。でも、他の人は気付いてないと思う」
「そう……」
 奏は律の言葉に少しだけ安心した。
 それと同時に、律がそこまで自分のことを思ってくれていたということに、申し訳なく感じてしまう。
「大月さん、みんな待ってるだろうし、そろそろ行こうか」
 いつもの爽やかな笑みに戻る律。
 まるで奏が感じている申し訳なさを取り除くかのように。
 少しだけ、奏の心は軽くなった。
「……うん」
 奏は律から視線を外し、前を見て歩く。
 
(私は響くんが好き。でも、この気持ちを伝えるのは今じゃない。その前に、私には決めたことがあるから)
 奏はあることを決意していた。





♪♪♪♪♪♪♪♪





「奏、遅かったね」
 奏の姿を確認した彩歌。すぐに奏に駆け寄る。
「うん、ゴミ捨てに手間取っちゃって」
 律から告白されたことは言わない奏である。
 
 一方、響は奏と律の様子から、何かあったことを察して気が気でなかった。
「律……かなちゃんと何かあった?」
「俺、大月さんに告白したんですよ」
 フッと笑う律。
 響は驚愕し、思わず息を呑む。
「でも、フラれました」
 律はそれだけ言って、その場を立ち去った。
 響はただ呆気に取られるだけである。
 
「響くん」
 彩歌との話を切り上げた奏は響の元へと来ていた。
「かなちゃん……」
 少し驚く響。
「私、決めたことがあるの」
 奏は真っ直ぐな目を響に向ける。覚悟が決めた目である。
「私、十二月のフルートコンクールに出ることにしたの。三年前、中学一年の時に本戦で棄権したコンクールに、三年前と同じ曲で」
 奏は穏やかだが力強い笑みだった。
「そっか」
 響は嬉しそうに見守るかのような表情だ。
「迷っていたけれど、本格的にフルート奏者を目指すことに決めたの」
「かなちゃん、応援してるよ」
 響は真っ直ぐ奏を見つめている。
「ありがとう、響くん」
 奏も真っ直ぐ響を見ていた。
(響くんに気持ちを伝えるのは、フルートコンクールが終わった後)
 奏の胸に灯った炎は、熱く強く燃えていた。