執事&メイド喫茶の休憩時間が回って来た響。素早くメイド服から制服に着替えて奏の元へ向かう。
響は奏と文化祭を回る約束をしていたのだ。
(まさか、かなちゃんと二人で文化祭回れるなんて)
響は浮かれていた。
ちなみに奏にベッタリの彩歌は小夜とセレナに呼ばれていたのである。
「そうだ、蓮斗達二年七組が謎解きカフェってやつやってるみたいなんだけど、行く?」
「晩沢先輩のクラスが。楽しそうですね。行きましょう」
奏はふふっと柔らかく微笑み頷いた。
いつも見慣れた学校のはずが、文化祭の飾り付けやお祭りモードの空気が流れ、初めて来た場所のような雰囲気になっている。
そんな中、奏と二人で行動。
響はチラリと奏の横顔を見る。
クールで大人びているが、初めての文化祭に少しワクワクとした表情の奏。
(かなちゃん、可愛いな)
響はニマニマと表情が緩んでいた。
その後、響は奏を連れて蓮斗のクラスや徹とセレナのクラス、そして吹奏楽部の三年生の先輩のクラスの模擬店を回った。
「かなちゃん、二年三組のお化け屋敷だって。行ってみる?」
響は二年三組の教室前で立ち止まる。
見慣れた教室のはずが、廃墟のような外装により不気味に見える。まるで本当に悪霊か何かが出て来そうな雰囲気だ。
しかし、誘っておいて響はハッとする。
幼い頃のことを思い出したのだ。
♪♪♪♪♪♪♪♪
それは響が小学二年生の時の夏休みの時のこと。
その日丁度奏の両親が不在であり、響の家で奏を預かることになったのだ。
その時、偶然テレビで流れていた番組が心霊現象などを特集したホラー系だった。
「かなちゃん、心霊番組って家で見たりする?」
「見たことない。そういうバラエティ番組とか、あんまり見なくて」
響の問いに、首を横に振る奏。
「そっか。じゃあ一緒に見てみる?」
「うん」
奏は首を縦に振った。
テレビからは、視聴者の体験を元にしたホラードラマが流れている。
(お、そろそろ出そうだな)
響は画面を見ながら怖いシーンのタイミングを予想した。
そして怖いシーンが流れた瞬間、響の隣から「ひっ」と小さな悲鳴が聞こえた。
奏である。
「かなちゃん?」
響は少し心配になり、奏の方を見る。
「響くん……」
奏は震えながら目に涙を溜めていた。
(かなちゃん、ホラー苦手だったんだ)
響は奏の反応を見てそう判断した。
「かなちゃん、手、繋ごうか? そしたら怖いのもマシになるかも」
響が手を差し出すと、奏はすぐに握った。
小さな奏の手は、小刻みに震えていた。
その後奏は響の手をギュッと握り、怖いシーンになると響の背中に隠れていた。
♪♪♪♪♪♪♪♪
「ごめん。そういえばかなちゃん、ホラー系苦手だったね。お化け屋敷はやめておこう」
響は申し訳なさそうに苦笑していた。
「いえ、大丈夫ですよ。……確かにテレビや映画みたいな映像系のホラーは苦手ですけれど、文化祭のお化け屋敷は完全なる人工物ですから」
奏はあまり怖がっていなさそうな雰囲気だ。
「それにしても、作り込みがかなり本格的ですね」
奏はその外装をじっくり見ている。
「……かなちゃんが良いのなら、入る?」
恐る恐る聞く響に、奏は頷く。
「ええ、良いですよ」
二人は受付の生徒に文化祭のみで使用出来る金券を渡し、不気味に作り込まれた教室に入るのであった。
薄暗く不気味な雰囲気が漂う教室は迷路のようになっている。
「うわあ、内部も凝ってるね」
響は目を細めて周囲をじっくり見渡す。
「確かに、本格的ですね」
ホラーが苦手な奏だが、落ち着いた様子だった。
しかし、響が次の一歩を踏み出した瞬間お化け役の生徒が全力で驚かせにかかってきた。
「うわっ!」
「きゃあっ!」
響は軽く驚いただけだが、奏はその場の座り込んでしまった。
「かなちゃん、大丈夫?」
響も座り込んで奏に視線を合わせた。
「高校の……文化祭レベルだから……大したことはないと思っていたのですが……」
奏は少し震えていた。必死に落ち着こうとしているようだが、震えは止まらない。
「確かにここ、細部までこだわったお化け屋敷みたいだからね」
響は奏を落ち着かせようと、なるべく優しい声を出した。
「舐めてました」
奏は苦笑した。
「じゃあさ……手、繋いで歩く?」
響は緊張しながら、奏から目をそらしてそう切り出す。
沈黙時間がやけに長く感じ、響は自分の心臓の音が奏に聞こえるのではないかと気が気でなかった。
「……お願いします」
奏は響から目をそらしながら、控えめにそう呟いた。
「……分かった」
響は緊張しながらも、奏の手を握る。奏が立ち上がるのを待ち、ゆっくりと歩き始めた。
(俺、手汗とか大丈夫かな? 握る力、このくらいで良いかな?)
響は心臓がバクバクし、ある意味お化け屋敷どころではない。
(でも……何かかなちゃんを守れているような気分だ)
響は隣にいる奏に目を向け、少しだけ口角を上げた。
「かなちゃん、大丈夫そう?」
「……はい。……何だかすみません」
奏は弱々しく笑う。
「謝らなくても良いよ。むしろ俺は……かなちゃんに頼ってもらえて嬉しいから」
暗がりで顔色が分かりにくい中、響は頬を染めながら真っ直ぐ奏を見ていた。
「……ありがとう、響くん」
奏は少しホッとし、安心したように微笑んだ。
「あ、ごめんなさい、響先輩。学校なのに敬語が抜けていました」
「別にそこは気にしてないから大丈夫だよ」
ハッと慌てる奏に響はクスッと笑った。
「じゃあ、進もっか」
「はい」
響は奏を守るように、お化け屋敷の出口へ向かった。
「お化け屋敷、意外と怖かったね」
二年三組のお化け屋敷から出た響。
「はい。高校生が作れる程度だと思って舐めていました」
奏は明るい場所に出たことでホッとしていた。
「でも、響先輩がいてくれて頼もしかったです。ありがとうございました」
奏はふふっと柔らかく微笑み、響を真っ直ぐ見ていた。
響は体温が上昇したような感覚になった。
「なら……良かったよ」
響ははにかみ、頭をポリポリと掻いた。
何ともいえない緊張感とほのかに甘い空気が流れている。
「そうだ、せっかくだし有志のステージも見に行ってみよう」
響は緊張していることを誤魔化す為、明るめの声で提案した。
「そうですね。そういえば、三年の先輩も有志のバンドでステージに出るって言っていましたよね。行きましょう」
奏は思い出したような表情になり、進み出す。
響は奏の隣に並んだ。
♪♪♪♪♪♪♪♪
響と奏が並んで歩いている様子を、校舎の外にある模擬店の列に並びながら詩織は見ていた。
複雑そうな表情である。
「そんな顔するなら、さっさと小日向先輩に気持ち伝えたら良いんじゃないの?」
突然声をかけられ、ビクリと肩を震わせる詩織。
「何だ、浜須賀くんか。びっくりした」
声の主は律だった。
律は詩織の後ろに並ぶ。
「浜須賀くんこそ、良いの? 大月さんのこと好きなんでしょう? 態度でバレバレ。でもこのままだと小日向先輩が有利なままだけど」
詩織はムスッとしていた。
「まあ確かに有利なのは小日向先輩だろうな。でも俺は内海さんとは違って小日向先輩に嫌がらせはしない。そこまで心が汚れてるわけじゃないから」
律は意地悪そうに笑う。
「……浜須賀くんって爽やかそうに見えて結構意地悪だよね。奏ちゃん、意地悪な人は好きじゃないかもよ」
詩織はキッと律を睨む。
「嫉妬心をコントロール出来なくて大月さんに嫌がらせした内海さんにだけは言われたくないかな」
フッと笑う律。
詩織は何も言い返せず、率を睨むだけだった。
文化祭一日目、校内祭はこうして過ぎていくのであった。
響は奏と文化祭を回る約束をしていたのだ。
(まさか、かなちゃんと二人で文化祭回れるなんて)
響は浮かれていた。
ちなみに奏にベッタリの彩歌は小夜とセレナに呼ばれていたのである。
「そうだ、蓮斗達二年七組が謎解きカフェってやつやってるみたいなんだけど、行く?」
「晩沢先輩のクラスが。楽しそうですね。行きましょう」
奏はふふっと柔らかく微笑み頷いた。
いつも見慣れた学校のはずが、文化祭の飾り付けやお祭りモードの空気が流れ、初めて来た場所のような雰囲気になっている。
そんな中、奏と二人で行動。
響はチラリと奏の横顔を見る。
クールで大人びているが、初めての文化祭に少しワクワクとした表情の奏。
(かなちゃん、可愛いな)
響はニマニマと表情が緩んでいた。
その後、響は奏を連れて蓮斗のクラスや徹とセレナのクラス、そして吹奏楽部の三年生の先輩のクラスの模擬店を回った。
「かなちゃん、二年三組のお化け屋敷だって。行ってみる?」
響は二年三組の教室前で立ち止まる。
見慣れた教室のはずが、廃墟のような外装により不気味に見える。まるで本当に悪霊か何かが出て来そうな雰囲気だ。
しかし、誘っておいて響はハッとする。
幼い頃のことを思い出したのだ。
♪♪♪♪♪♪♪♪
それは響が小学二年生の時の夏休みの時のこと。
その日丁度奏の両親が不在であり、響の家で奏を預かることになったのだ。
その時、偶然テレビで流れていた番組が心霊現象などを特集したホラー系だった。
「かなちゃん、心霊番組って家で見たりする?」
「見たことない。そういうバラエティ番組とか、あんまり見なくて」
響の問いに、首を横に振る奏。
「そっか。じゃあ一緒に見てみる?」
「うん」
奏は首を縦に振った。
テレビからは、視聴者の体験を元にしたホラードラマが流れている。
(お、そろそろ出そうだな)
響は画面を見ながら怖いシーンのタイミングを予想した。
そして怖いシーンが流れた瞬間、響の隣から「ひっ」と小さな悲鳴が聞こえた。
奏である。
「かなちゃん?」
響は少し心配になり、奏の方を見る。
「響くん……」
奏は震えながら目に涙を溜めていた。
(かなちゃん、ホラー苦手だったんだ)
響は奏の反応を見てそう判断した。
「かなちゃん、手、繋ごうか? そしたら怖いのもマシになるかも」
響が手を差し出すと、奏はすぐに握った。
小さな奏の手は、小刻みに震えていた。
その後奏は響の手をギュッと握り、怖いシーンになると響の背中に隠れていた。
♪♪♪♪♪♪♪♪
「ごめん。そういえばかなちゃん、ホラー系苦手だったね。お化け屋敷はやめておこう」
響は申し訳なさそうに苦笑していた。
「いえ、大丈夫ですよ。……確かにテレビや映画みたいな映像系のホラーは苦手ですけれど、文化祭のお化け屋敷は完全なる人工物ですから」
奏はあまり怖がっていなさそうな雰囲気だ。
「それにしても、作り込みがかなり本格的ですね」
奏はその外装をじっくり見ている。
「……かなちゃんが良いのなら、入る?」
恐る恐る聞く響に、奏は頷く。
「ええ、良いですよ」
二人は受付の生徒に文化祭のみで使用出来る金券を渡し、不気味に作り込まれた教室に入るのであった。
薄暗く不気味な雰囲気が漂う教室は迷路のようになっている。
「うわあ、内部も凝ってるね」
響は目を細めて周囲をじっくり見渡す。
「確かに、本格的ですね」
ホラーが苦手な奏だが、落ち着いた様子だった。
しかし、響が次の一歩を踏み出した瞬間お化け役の生徒が全力で驚かせにかかってきた。
「うわっ!」
「きゃあっ!」
響は軽く驚いただけだが、奏はその場の座り込んでしまった。
「かなちゃん、大丈夫?」
響も座り込んで奏に視線を合わせた。
「高校の……文化祭レベルだから……大したことはないと思っていたのですが……」
奏は少し震えていた。必死に落ち着こうとしているようだが、震えは止まらない。
「確かにここ、細部までこだわったお化け屋敷みたいだからね」
響は奏を落ち着かせようと、なるべく優しい声を出した。
「舐めてました」
奏は苦笑した。
「じゃあさ……手、繋いで歩く?」
響は緊張しながら、奏から目をそらしてそう切り出す。
沈黙時間がやけに長く感じ、響は自分の心臓の音が奏に聞こえるのではないかと気が気でなかった。
「……お願いします」
奏は響から目をそらしながら、控えめにそう呟いた。
「……分かった」
響は緊張しながらも、奏の手を握る。奏が立ち上がるのを待ち、ゆっくりと歩き始めた。
(俺、手汗とか大丈夫かな? 握る力、このくらいで良いかな?)
響は心臓がバクバクし、ある意味お化け屋敷どころではない。
(でも……何かかなちゃんを守れているような気分だ)
響は隣にいる奏に目を向け、少しだけ口角を上げた。
「かなちゃん、大丈夫そう?」
「……はい。……何だかすみません」
奏は弱々しく笑う。
「謝らなくても良いよ。むしろ俺は……かなちゃんに頼ってもらえて嬉しいから」
暗がりで顔色が分かりにくい中、響は頬を染めながら真っ直ぐ奏を見ていた。
「……ありがとう、響くん」
奏は少しホッとし、安心したように微笑んだ。
「あ、ごめんなさい、響先輩。学校なのに敬語が抜けていました」
「別にそこは気にしてないから大丈夫だよ」
ハッと慌てる奏に響はクスッと笑った。
「じゃあ、進もっか」
「はい」
響は奏を守るように、お化け屋敷の出口へ向かった。
「お化け屋敷、意外と怖かったね」
二年三組のお化け屋敷から出た響。
「はい。高校生が作れる程度だと思って舐めていました」
奏は明るい場所に出たことでホッとしていた。
「でも、響先輩がいてくれて頼もしかったです。ありがとうございました」
奏はふふっと柔らかく微笑み、響を真っ直ぐ見ていた。
響は体温が上昇したような感覚になった。
「なら……良かったよ」
響ははにかみ、頭をポリポリと掻いた。
何ともいえない緊張感とほのかに甘い空気が流れている。
「そうだ、せっかくだし有志のステージも見に行ってみよう」
響は緊張していることを誤魔化す為、明るめの声で提案した。
「そうですね。そういえば、三年の先輩も有志のバンドでステージに出るって言っていましたよね。行きましょう」
奏は思い出したような表情になり、進み出す。
響は奏の隣に並んだ。
♪♪♪♪♪♪♪♪
響と奏が並んで歩いている様子を、校舎の外にある模擬店の列に並びながら詩織は見ていた。
複雑そうな表情である。
「そんな顔するなら、さっさと小日向先輩に気持ち伝えたら良いんじゃないの?」
突然声をかけられ、ビクリと肩を震わせる詩織。
「何だ、浜須賀くんか。びっくりした」
声の主は律だった。
律は詩織の後ろに並ぶ。
「浜須賀くんこそ、良いの? 大月さんのこと好きなんでしょう? 態度でバレバレ。でもこのままだと小日向先輩が有利なままだけど」
詩織はムスッとしていた。
「まあ確かに有利なのは小日向先輩だろうな。でも俺は内海さんとは違って小日向先輩に嫌がらせはしない。そこまで心が汚れてるわけじゃないから」
律は意地悪そうに笑う。
「……浜須賀くんって爽やかそうに見えて結構意地悪だよね。奏ちゃん、意地悪な人は好きじゃないかもよ」
詩織はキッと律を睨む。
「嫉妬心をコントロール出来なくて大月さんに嫌がらせした内海さんにだけは言われたくないかな」
フッと笑う律。
詩織は何も言い返せず、率を睨むだけだった。
文化祭一日目、校内祭はこうして過ぎていくのであった。



