響は部活が終わった後、文化祭の出し物を準備している二年四組の教室に向かった。
文化祭準備を手伝っていたのだ。
そして昇降口に向かう途中のこと。
「小日向先輩」
響はニコニコしている詩織に話しかけられた。
「内海か。音楽室に残ってたのか?」
不思議に思い、首を傾げる響。
「ちょっと……小日向先輩を待ってました」
上目遣いの詩織。
「え? 何で?」
響はまた不思議に思い、首を傾げている。
「それは……先輩と一緒に帰りたくて」
ふふっと笑い、響のカーディガンの袖をちょこんとつまむ詩織。
「はあ……」
相変わらずきょとんとしている響だった。
わけが分からないまま成り行きで詩織と帰ることになる響。
その時、昇降口で不機嫌そうだが心配そうな表情の彩歌を見つけた。
彩歌は二人分の鞄を持っていた。
片方は自身の鞄、もう片方は奏のである。
「天沢さん? どうしたの? 帰ったんじゃなかったっけ? それ、かなちゃんの鞄だよね?」
奏と接する時は彩歌もいることが多かったので、彩歌への苦手意識はいつの間にか薄れている響である。
「奏待ってる。でも、全然来ないから……心配。奏のスマホ、鞄に入ってるから連絡しようがないし。音楽室とかに戻って入れ違いにっても奏困ると思うから……」
刺々しいした口調だが、いつもより弱々しい。
「分かった。じゃあ俺が音楽室まで行って見て来る」
響はすぐに音楽室に向かおうとする。
「小日向先輩」
詩織は懇願するかのような表情で表情のカーディガンをつかむ。
「心配だから、かなちゃん探さないと」
真剣な表情の響。
「……私も協力します」
詩織はぎこちなくそう答えた。
「じゃあ天沢さんはそこで待っていて。俺がかなちゃん探すから」
「……分かった」
彩歌は若干不本意ながらも頷いた。
「俺音楽室行くから、内海は他の場所を頼む」
「……分かりました」
響の指示に、詩織は表情を暗くして頷いた。
しかし、奏のことばかり頭にある響は全く気付かないまま音楽室へ駆け出してしまう。
「どうしてあの子ばっかり……。私の方が小日向先輩のこと……」
詩織は口をへの字にするのであった。
♪♪♪♪♪♪♪♪
(誰が来ないかな……?)
奏は少し心細くなっていた。
律もいるとはいえ、いつまで経っても誰も来ないと不安になる。
(響くん……)
奏の脳裏に真っ先に思い浮かんだのは響の姿。おまけに響先輩呼びではない。
「誰も来ないね……」
律は苦笑しながらドアの外を確認する。
「そうだね」
奏は力なく笑いながら律に目を向けた。
(何で先に響くんのことが思い浮かんだのかな? 彩歌も待たせているのに。……響くんが幼馴染だから?)
奏は自分の思考に疑問を抱いた。
その時、ドアの向こうから誰かが走って来る足音が聞こえた。
奏はハッとする。
「浜須賀くん、誰が来てるよ」
「うん」
律はドアをバンバンと叩く。
「すみません! 開けてください!」
すると、ドアの向こうから声が聞こえる。
「その声、律か?」
聞こえたのは響の声。
奏はその声を聞き、大きな安心感に包まれる。
「小日向先輩! ドアに何か挟まって塞がれてます! 大月さんも一緒です!」
「かなちゃんも! 分かった! 今開ける! あ、何かつっかえ棒みたいのがある!」
外から響がガタガタとつっかえ棒を外し、無事に音楽準備室のドアは開いた。
「良かった、かなちゃん」
響は真っ先に奏の元へ向かう。
「響くん……」
ホッとして思わずそう呟いてしまった奏。
大きな安心感に包まれたせいか、その場に座り込んでしまう。
「大丈夫?」
優しい声色の響。
奏はゆっくりと頷いた。
「天沢さんも心配してたよ。入れ違いにならないよう昇降口で待ってくれてる」
「そうですね。彩歌にも心配かけちゃいました」
奏は力なく笑った。
「そのカーディガン……」
響は奏が羽織っている青いカーディガンを見て怪訝そうな表情になる。
「俺が貸しました。大月さん、少し寒そうだったので」
「律が……」
響は一瞬だけ複雑そうな表情になる。
「律も、大変だったな」
響はすぐに柔らかな笑みになり、律の肩を軽くポンと叩いた。
「いえ、大丈夫です。それと、音楽室側のドアも何かで塞がれてます」
「音楽室側の?」
響は怪訝そうに確認しに行く。
音楽室側のドアは、奏が開けようとした時と同様まだガタガタと音がするだけで開く様子はない。
「音楽室側からドアを塞いだ場合、仕掛けた人は音楽室から出る必要がある……。音楽室のドア、もしかしたら開いてる可能性ありますよね?」
律が聞くと、響も頷く。
「確かにその可能性はあるな」
「私、確認しますね」
奏はすぐに音楽準備室を出て、音楽室のドアを調べる。
すると、三年生の部員が締めたはずのドアは開いていた。
「浜須賀くんの言う通り、私達以外に……まだ誰かいた?」
奏は律と楽譜を拾い終わった後のことを思い出すが、誰もいなかったように思える。
「あ、こっちもつっかえ棒がある」
響は音楽室と音楽準備室を繋ぐドアのつっかえ棒を外した。
『考えたくないけど……わざと……とか』
『うん……。大月さん、最近メトとかチューナーとか壊されてるよね。もし大月さんを狙ったものだとしたら……』
律の言葉を思い出す。
(私狙い……。本当に誰が……?)
やはり犯人に心当たりがない奏であった。
「大月さん、大丈夫?」
考え込む奏を律は心配そうに覗き込む。
「あ、ごめん、大丈夫。そうだ、カーディガンありがとう。ずっと着たままだったね」
奏はハッとして思い出し、律にカーディガンを返した。
「響先輩、とりあえず音楽室の鍵を借りて締めましょう」
奏がそう言うと、響は頷く。
「そうだね」
奏、響、律の三人は音楽室を出た。
その時、パタパタと足音が聞こえた。詩織が向かって来ていたのだ。
「あ、良かった、見つかったんですね」
安心したような表情の詩織。
「うん。ドアにつっかえ棒が挟まってたみたいで、かなちゃんと律が閉じ込められてた」
「そうでしたか……」
詩織はチラリと律を見てから目をそらした。
「でも、奏ちゃんが無事で良かった。彩歌ちゃんも心配してたよ」
詩織は奏にニコリと笑う。
「ありがとう、詩織ちゃん。心配かけたみたいでごめんね」
奏は少し申し訳なさそうに微笑んだ。
こうして、奏は無事に音楽準備室から出ることが出来て、彩歌だけでなく響、律、詩織も交えて帰ることになった。
♪♪♪♪♪♪♪♪
前で奏に話しかける響。そんな響に噛み付く彩歌。帰り道、賑やかな様子を律は見ていた。律の少し前には、複雑そうにその様子を見ている詩織がいる。
詩織の後ろ姿が、少し前の音楽の授業中に見た後ろ姿と重なる。
(多分そうだ……)
律の疑念はほとんど確信に変わる。
そして詩織の隣に行く。
「最近ちょっとやり過ぎじゃない? 今回の件も、大月さんのメトとかの件も」
低い声で脅しをかける律。
「……何のこと?」
詩織はきょとんと首を傾げている。
「誤魔化す気か。まあ、まだ大事にはなってないけどさ」
律の声は冷たかった。
そして律は思い出す。奏がハンカチを返してくれた時の表情を。柔らかな笑みだった。
(いつも割とクールな大月さんのあの笑顔……守りたいって思った。多分俺、あの笑顔に惚れたんだな。そして小日向先輩も間違いなく大月さんのことが好き。で、こっちの内海さんは……)
チラリと詩織を見る律。
(どのみち、大月さんを傷付けることだけは許さない)
律は軽くため息をつき、再び詩織に冷たい視線を送った。
♪♪♪♪♪♪♪♪
翌日。
「奏、本当昨日は大変だったね。今日は部活終わったら早く帰ろう」
「うん、ごめんね彩歌。私も忘れ物に気を付けるから」
奏は彩歌に対して申し訳なくなる。
この日二人はいつもより早めに部活に来ていた。
「もしかしてあたし達一番乗り?」
「そうかも。一番とか初めてだね」
奏はふふっと笑い、音楽室に入る。
授業がある為、音楽室は開いていた。
そして二人は音楽準備室に楽器などを取りに行く。
するとそこには詩織がいた。
「あれ? あたし達が一番じゃなかったか」
彩歌は苦笑する。
しかし、詩織が持っているものを見ると、彩歌の表情が消えた。
「彩歌?」
奏は不思議に思い、彩歌を見る。
「あんたさ、それ奏の楽譜だよね? 何しようとしてたの?」
低く冷たい声の彩歌。
「え……?」
奏は彩歌の言葉に驚き、詩織が手にしているものに目を向ける。
確かに奏の楽譜が挟んであるファイルだった。
おまけに数枚の楽譜はビリビリに破かれている。
詩織は奏達を見て完全に固まっていた。
(まさか……でも、何で?)
奏の頭は真っ白になった。
文化祭準備を手伝っていたのだ。
そして昇降口に向かう途中のこと。
「小日向先輩」
響はニコニコしている詩織に話しかけられた。
「内海か。音楽室に残ってたのか?」
不思議に思い、首を傾げる響。
「ちょっと……小日向先輩を待ってました」
上目遣いの詩織。
「え? 何で?」
響はまた不思議に思い、首を傾げている。
「それは……先輩と一緒に帰りたくて」
ふふっと笑い、響のカーディガンの袖をちょこんとつまむ詩織。
「はあ……」
相変わらずきょとんとしている響だった。
わけが分からないまま成り行きで詩織と帰ることになる響。
その時、昇降口で不機嫌そうだが心配そうな表情の彩歌を見つけた。
彩歌は二人分の鞄を持っていた。
片方は自身の鞄、もう片方は奏のである。
「天沢さん? どうしたの? 帰ったんじゃなかったっけ? それ、かなちゃんの鞄だよね?」
奏と接する時は彩歌もいることが多かったので、彩歌への苦手意識はいつの間にか薄れている響である。
「奏待ってる。でも、全然来ないから……心配。奏のスマホ、鞄に入ってるから連絡しようがないし。音楽室とかに戻って入れ違いにっても奏困ると思うから……」
刺々しいした口調だが、いつもより弱々しい。
「分かった。じゃあ俺が音楽室まで行って見て来る」
響はすぐに音楽室に向かおうとする。
「小日向先輩」
詩織は懇願するかのような表情で表情のカーディガンをつかむ。
「心配だから、かなちゃん探さないと」
真剣な表情の響。
「……私も協力します」
詩織はぎこちなくそう答えた。
「じゃあ天沢さんはそこで待っていて。俺がかなちゃん探すから」
「……分かった」
彩歌は若干不本意ながらも頷いた。
「俺音楽室行くから、内海は他の場所を頼む」
「……分かりました」
響の指示に、詩織は表情を暗くして頷いた。
しかし、奏のことばかり頭にある響は全く気付かないまま音楽室へ駆け出してしまう。
「どうしてあの子ばっかり……。私の方が小日向先輩のこと……」
詩織は口をへの字にするのであった。
♪♪♪♪♪♪♪♪
(誰が来ないかな……?)
奏は少し心細くなっていた。
律もいるとはいえ、いつまで経っても誰も来ないと不安になる。
(響くん……)
奏の脳裏に真っ先に思い浮かんだのは響の姿。おまけに響先輩呼びではない。
「誰も来ないね……」
律は苦笑しながらドアの外を確認する。
「そうだね」
奏は力なく笑いながら律に目を向けた。
(何で先に響くんのことが思い浮かんだのかな? 彩歌も待たせているのに。……響くんが幼馴染だから?)
奏は自分の思考に疑問を抱いた。
その時、ドアの向こうから誰かが走って来る足音が聞こえた。
奏はハッとする。
「浜須賀くん、誰が来てるよ」
「うん」
律はドアをバンバンと叩く。
「すみません! 開けてください!」
すると、ドアの向こうから声が聞こえる。
「その声、律か?」
聞こえたのは響の声。
奏はその声を聞き、大きな安心感に包まれる。
「小日向先輩! ドアに何か挟まって塞がれてます! 大月さんも一緒です!」
「かなちゃんも! 分かった! 今開ける! あ、何かつっかえ棒みたいのがある!」
外から響がガタガタとつっかえ棒を外し、無事に音楽準備室のドアは開いた。
「良かった、かなちゃん」
響は真っ先に奏の元へ向かう。
「響くん……」
ホッとして思わずそう呟いてしまった奏。
大きな安心感に包まれたせいか、その場に座り込んでしまう。
「大丈夫?」
優しい声色の響。
奏はゆっくりと頷いた。
「天沢さんも心配してたよ。入れ違いにならないよう昇降口で待ってくれてる」
「そうですね。彩歌にも心配かけちゃいました」
奏は力なく笑った。
「そのカーディガン……」
響は奏が羽織っている青いカーディガンを見て怪訝そうな表情になる。
「俺が貸しました。大月さん、少し寒そうだったので」
「律が……」
響は一瞬だけ複雑そうな表情になる。
「律も、大変だったな」
響はすぐに柔らかな笑みになり、律の肩を軽くポンと叩いた。
「いえ、大丈夫です。それと、音楽室側のドアも何かで塞がれてます」
「音楽室側の?」
響は怪訝そうに確認しに行く。
音楽室側のドアは、奏が開けようとした時と同様まだガタガタと音がするだけで開く様子はない。
「音楽室側からドアを塞いだ場合、仕掛けた人は音楽室から出る必要がある……。音楽室のドア、もしかしたら開いてる可能性ありますよね?」
律が聞くと、響も頷く。
「確かにその可能性はあるな」
「私、確認しますね」
奏はすぐに音楽準備室を出て、音楽室のドアを調べる。
すると、三年生の部員が締めたはずのドアは開いていた。
「浜須賀くんの言う通り、私達以外に……まだ誰かいた?」
奏は律と楽譜を拾い終わった後のことを思い出すが、誰もいなかったように思える。
「あ、こっちもつっかえ棒がある」
響は音楽室と音楽準備室を繋ぐドアのつっかえ棒を外した。
『考えたくないけど……わざと……とか』
『うん……。大月さん、最近メトとかチューナーとか壊されてるよね。もし大月さんを狙ったものだとしたら……』
律の言葉を思い出す。
(私狙い……。本当に誰が……?)
やはり犯人に心当たりがない奏であった。
「大月さん、大丈夫?」
考え込む奏を律は心配そうに覗き込む。
「あ、ごめん、大丈夫。そうだ、カーディガンありがとう。ずっと着たままだったね」
奏はハッとして思い出し、律にカーディガンを返した。
「響先輩、とりあえず音楽室の鍵を借りて締めましょう」
奏がそう言うと、響は頷く。
「そうだね」
奏、響、律の三人は音楽室を出た。
その時、パタパタと足音が聞こえた。詩織が向かって来ていたのだ。
「あ、良かった、見つかったんですね」
安心したような表情の詩織。
「うん。ドアにつっかえ棒が挟まってたみたいで、かなちゃんと律が閉じ込められてた」
「そうでしたか……」
詩織はチラリと律を見てから目をそらした。
「でも、奏ちゃんが無事で良かった。彩歌ちゃんも心配してたよ」
詩織は奏にニコリと笑う。
「ありがとう、詩織ちゃん。心配かけたみたいでごめんね」
奏は少し申し訳なさそうに微笑んだ。
こうして、奏は無事に音楽準備室から出ることが出来て、彩歌だけでなく響、律、詩織も交えて帰ることになった。
♪♪♪♪♪♪♪♪
前で奏に話しかける響。そんな響に噛み付く彩歌。帰り道、賑やかな様子を律は見ていた。律の少し前には、複雑そうにその様子を見ている詩織がいる。
詩織の後ろ姿が、少し前の音楽の授業中に見た後ろ姿と重なる。
(多分そうだ……)
律の疑念はほとんど確信に変わる。
そして詩織の隣に行く。
「最近ちょっとやり過ぎじゃない? 今回の件も、大月さんのメトとかの件も」
低い声で脅しをかける律。
「……何のこと?」
詩織はきょとんと首を傾げている。
「誤魔化す気か。まあ、まだ大事にはなってないけどさ」
律の声は冷たかった。
そして律は思い出す。奏がハンカチを返してくれた時の表情を。柔らかな笑みだった。
(いつも割とクールな大月さんのあの笑顔……守りたいって思った。多分俺、あの笑顔に惚れたんだな。そして小日向先輩も間違いなく大月さんのことが好き。で、こっちの内海さんは……)
チラリと詩織を見る律。
(どのみち、大月さんを傷付けることだけは許さない)
律は軽くため息をつき、再び詩織に冷たい視線を送った。
♪♪♪♪♪♪♪♪
翌日。
「奏、本当昨日は大変だったね。今日は部活終わったら早く帰ろう」
「うん、ごめんね彩歌。私も忘れ物に気を付けるから」
奏は彩歌に対して申し訳なくなる。
この日二人はいつもより早めに部活に来ていた。
「もしかしてあたし達一番乗り?」
「そうかも。一番とか初めてだね」
奏はふふっと笑い、音楽室に入る。
授業がある為、音楽室は開いていた。
そして二人は音楽準備室に楽器などを取りに行く。
するとそこには詩織がいた。
「あれ? あたし達が一番じゃなかったか」
彩歌は苦笑する。
しかし、詩織が持っているものを見ると、彩歌の表情が消えた。
「彩歌?」
奏は不思議に思い、彩歌を見る。
「あんたさ、それ奏の楽譜だよね? 何しようとしてたの?」
低く冷たい声の彩歌。
「え……?」
奏は彩歌の言葉に驚き、詩織が手にしているものに目を向ける。
確かに奏の楽譜が挟んであるファイルだった。
おまけに数枚の楽譜はビリビリに破かれている。
詩織は奏達を見て完全に固まっていた。
(まさか……でも、何で?)
奏の頭は真っ白になった。



