「つまり皆様は、同じ時代同じ場所で過ごされていた方々であり、今はこの城に囚われた地縛霊――というワケですのね」
幽霊たちから色々と話を聞いたキャサリンは、彼らが生前からの知り合いであることを教えられる。
同時に、四人共『ホプキンス城』と関わりの深い者たちであったことも。
デュラハン伯爵はコクリと頷き、
『ああ、三百年前の『ホプキンス城』は優に百人以上の人間が暮らす、それはそれは賑やかな城だったのだ』
『私と弟は領地を治める貴族として、テレサは城と併設された修道院の労働者として、ダニーはホプキンス家に仕える騎士として城に関わっておりました』
デュラハン伯爵の言葉に続くように、逆さま婦人が言う。
『私たちが生者だった頃は、毎日大勢の人が往来する活気ある城だったのですが……』
『敵国の侵略を受けて城も土地も奪われて以降は、徐々に寂れて人の往来もなくなっていき……気が付けば〝幽霊城〟と揶揄されるまでに落ちぶれてしまった』
ため息を交え、残念そうに語るデュラハン伯爵。
〝幽霊城〟と呼ばれるようになった原因はあなたたちでは……? と内心で思ったりするキャサリンだったが、重めの空気感だったので口に出すのはやめておいた。
『まったく嘆かわしい。この城が寂しく朽ちてゆくのを、ただ見守っていることしかできんとは……』
「……デュラハン伯爵は、このお城に人が戻ってきて欲しいと思っておられますの?」
『当然だ』
デュラハン伯爵は、力強く頷く。
『城主――いや領主にとって、城を訪れて笑顔を見せてくれる人々の姿がなによりの宝だったのだ。あの日々が恋しくないワケはない』
『デュラハン伯爵様の仰る通りだ』
うんうん、と頷く人魂スケルトン。
頭を上げ下げする度にカタカタと音が鳴る様子はとてもシュールだな、とキャサリンは思ったり。
『我ら一同、民の笑顔を心より愛していた。今の静かな暮らしも悪くはないが……幾百年の静寂は長すぎた』
「テレサ様……透明人間シスター様も同じようにお考えですの?」
『ふぇ!? わ、私は……』
透明人間シスターは若干しどろもどろになりつつも、
『私は、人に顔を見られるのは恥ずかしいですけれど……人の笑顔を見るのは、好きかもしれません……』
やはり城に活気が戻ってきて欲しい様子だった。
「……」
うーむ、とキャサリンは考える。
この考えるというのは、彼女の生前からの癖だった。
――例えば会社の中でなにか新しい企画を動かしたいと言われた時、例えば他の会社が○○をやり始めたと聞いた時、例えば「最近仕事が上手くいってなくて……」と相談を受けた時。
彼女は自然と、誰に言われるでもなく自分の頭で考え始めるという癖が付いていた。
自分ならどうするか? どんな企画なら成功しそうか? 他の会社が○○を始めたのなら、自分の会社ではどんなことができるだろうか? 今の状況なら一体なにができるだろうか? もし自分なら――
この「自分ならどうするか」「どうしたら上手くいくか」「今なにができるか」と無意識に考え始めるのが、キャサリンもとい佐藤法子の癖であり習慣でもあった。
もっともこれは、彼女が意図的に習慣化した思考回路でもある。
何故なら、彼女にはバリキャリ時代からの一つの目標――いや〝夢〟があったから。
そして彼女は――ある一つのアイデアを思い付く。
『キャサリン嬢?』
「……もし、ですけれど――この城に活気を取り戻せるかもしれない、と言ったらどうします?」
『『『『え?』』』』
四人の幽霊たちの声がハモる。
「勿論、そのためには皆様のお力が必要となりますけれど……ご興味、おありかしら?」
不敵に笑うキャサリン。
この後にキャサリンが言い出した提案は、彼らにとって思いもよらぬモノであった。
▲ ▲ ▲
――キャサリンが幽霊たち四人と邂逅した翌日。
「……このお城で、〝お化け屋敷〟を経営したい……?」
突然キャサリンから受けた相談に、グラニーは些か困惑する。
「そうですわお婆ちゃま! このお城で〝お化け屋敷〟を経営して、ひと儲けしてやるんですの!」
意志のこもった力強い声で、キャサリンは熱弁する。
思い付いたら即行動。昨夜幽霊たちと話したことで、彼女は『ホプキンス城』が持つビジネスチャンスに気付いたのだ。
バリキャリだった前世から、キャサリンには一つの〝夢〟があった。
それは――自分の会社を持つこと。
自分で起業し、自分で経営し、自分が理想とする会社を大きくすること。
その夢のために大企業に勤めて様々な経験を積み、経営に関する知識を吸収して、やり手のキャリアウーマンとして周囲から認知され始めた――そんな頃、無念にも過労によって命を落としてしまったのである。
――この世界で前世の記憶を取り戻し、『ホプキンス城』などというボロ古城に住まわせられるとなった時、キャサリンは最初こそ「もう人生の終わりだ」と絶望した。
けれどグラニーという優しい祖母に迎えられ、個性豊かな幽霊たちと出会った時、彼女の意識は切り替わった。
同時に思ったのだ。「この城の持ち味を生かしてお金を儲け、立派に再建したい」と。
それは祖母グラニーに少しでもいい暮らしをして欲しいがため。
そして幽霊たちの「この城に活気を取り戻したい」という願いを叶えるため。
そんな二つの願いを一緒に達成する潜在的価値が『ホプキンス城』にはあると、キャサリンは見抜いたのである。
キャサリンは既にざっとではあるが城内を見て回っており、ここがどんな城なのか、どこになにがあるのか、部屋の数はどれくらいなのかなどを概ね把握していた。
『ホプキンス城』は立派な城であるが、砦という観点で見るとそこまで極端に大きな建築物ではない。
まず、元からなかったのか既に取り壊されてしまったのか、一般に城壁と呼称される城の周囲をぐるりと取り囲むそそり立つ壁は存在しない。
代わりに小高い丘の上に建てられているのと、丘の斜面下の地面が抉られたようにやや窪んでいて天然の堀のようになっているため、正門に続く長い橋を渡らないと敷地の中に入れないようになっている。もしかしたら、昔はこの堀のような窪みの中に水が溜められていたのかもしれない。
正門を潜った先には中庭があり、天守、礼拝堂、使用人居住区、馬小屋などにアクセスできるようになっている。
天守とされる部分は四階建てで、普段キャサリンやグラニーが過ごしている空間は天守《キープ》の中。
もっとも天守と言っても、『ホプキンス城』のそれは礼拝堂や使用人居住区などとほぼ全ての建物と内部が繋がっていて、外に出ずとも直接行き来できる構造になっている。故に俯瞰して見ると全体で一つの建築物と思えるデザインとなっており、区画の区切りはやや曖昧な感じだ。
城というのは要塞の役割も兼ねているから、無駄に広いリビングがあるかと思えば人一人通るのがやっとなほど狭い通路もあり、さらには分厚い石壁で覆われているため不気味なほど無音な見張り塔まで存在する。
キャサリンが調べた限り、城の総部屋数は用途問わず大小含めれば約百部屋前後。鍵がかかっていて立ち入れなかった場所なども複数あったため、少なくともキャサリンが把握している限りでは、となるが。
とはいえデュラハン伯爵が言っていたように、かつて多くの人間がここで暮らしていたことが伺える間取りとなっているのは間違いない。
どうやら地下にも色々と空間が広がっているようだが、キャサリンは流石にそこまでは見て回れていない。
ともかく――これら『ホプキンス城』の間取りは、〝お化け屋敷〟としては理想的な条件を満たしているのだ。
キャサリンは怖いモノが苦手だ。苦手というか大嫌いだ。
できれば一生関わりたくないと思っていたし、もしどこかの遊園地にある適当なお化け屋敷に入ろうモノなら、即座に失神するだろう。
それだけ彼女は、人一倍怖がりなのだ、
だが逆を言えば、それだけキャサリンは「どんなモノが怖いのか」「どうすれば人を怖がらせることができるのか」を理解しているとも言ってよい。
だって自分が怖いと思うモノを素直にアウトプットすればいいのだから。
怖がりであればあるほど、怖いモノをクリエイティブに創造することができる。
だからキャサリンは「いける」と思ったのだ。
勿論、彼女は本音を言えば「お化け屋敷なんて嫌ですわ~!」と思っている。
人一倍怖がりなのに、なにが悲しくて率先してホラーに関わらなきゃならないのかと。
何故あまつさえその事業を展開しなきゃならないのかと。
でも、それはそれとしてお化け屋敷を経営したい――。自分のやっている行為が完全に矛盾していると、キャサリンは自覚していた。他人に言えば頭がおかしいと思われかねないということも。
しかしキャサリンの経験と直感が告げるのだ。これは「成功する」「絶対に上手くいく」と。
そしてなによりも――怖いのを我慢してでも、祖母に恩返しをしていい暮らしをさせてあげたい、幽霊たちの願いを叶えてあげたいと、彼女は思ったのである。
この優しい性格と善性こそ、彼女がバリキャリ時代に多くの部下に慕われる理由でもあった。
もっとも一言に〝お化け屋敷〟をやると言っても、ここは日本ではない異世界。
ありとあらゆるモノの勝手が違う。
だがそれも込みで、キャサリンには勝算があった。
「お願いですわお婆ちゃま! 私にチャンスをくださいまし! 絶対、お婆ちゃまには迷惑をかけないとお約束しますから!」
「う、う~ん……そう言われてもねぇ……」
「お金のことは自分でなんとか致します! お婆ちゃまの手を煩わせるようなことはしませんから……!」
僅か十三歳の孫娘に迫られ、なんとも困り顔のグラニー。それは至極真っ当な反応であった。
しかしキャサリンも退くワケにはいかない。祖母を説得せねば、祖母に今以上のいい暮らしをさせてあげられないのだから。
グラニーはしばしの間考え、
「……キャサリンや、一つだけお婆ちゃんと約束しておくれ」
「? なにを、ですの?」
「〝後悔しないこと〟」
グラニーは、優しい手つきで孫娘の頭を撫でる。
「私のことは気にしないでいいよ。でもやるからには、精一杯おやり。後々になって後悔しないようにね。約束できるかい?」
「……! 勿論ですわ! 私、絶対に後悔なんてしません! 精一杯やりますわ!」
「うんうん、それなら思う存分やってみなさいな」
グラニーは、キャサリンのアイデアを了承する。
この時――キャサリンの〝ホプキンス城お化け屋敷計画〟は始動した。
幽霊たちから色々と話を聞いたキャサリンは、彼らが生前からの知り合いであることを教えられる。
同時に、四人共『ホプキンス城』と関わりの深い者たちであったことも。
デュラハン伯爵はコクリと頷き、
『ああ、三百年前の『ホプキンス城』は優に百人以上の人間が暮らす、それはそれは賑やかな城だったのだ』
『私と弟は領地を治める貴族として、テレサは城と併設された修道院の労働者として、ダニーはホプキンス家に仕える騎士として城に関わっておりました』
デュラハン伯爵の言葉に続くように、逆さま婦人が言う。
『私たちが生者だった頃は、毎日大勢の人が往来する活気ある城だったのですが……』
『敵国の侵略を受けて城も土地も奪われて以降は、徐々に寂れて人の往来もなくなっていき……気が付けば〝幽霊城〟と揶揄されるまでに落ちぶれてしまった』
ため息を交え、残念そうに語るデュラハン伯爵。
〝幽霊城〟と呼ばれるようになった原因はあなたたちでは……? と内心で思ったりするキャサリンだったが、重めの空気感だったので口に出すのはやめておいた。
『まったく嘆かわしい。この城が寂しく朽ちてゆくのを、ただ見守っていることしかできんとは……』
「……デュラハン伯爵は、このお城に人が戻ってきて欲しいと思っておられますの?」
『当然だ』
デュラハン伯爵は、力強く頷く。
『城主――いや領主にとって、城を訪れて笑顔を見せてくれる人々の姿がなによりの宝だったのだ。あの日々が恋しくないワケはない』
『デュラハン伯爵様の仰る通りだ』
うんうん、と頷く人魂スケルトン。
頭を上げ下げする度にカタカタと音が鳴る様子はとてもシュールだな、とキャサリンは思ったり。
『我ら一同、民の笑顔を心より愛していた。今の静かな暮らしも悪くはないが……幾百年の静寂は長すぎた』
「テレサ様……透明人間シスター様も同じようにお考えですの?」
『ふぇ!? わ、私は……』
透明人間シスターは若干しどろもどろになりつつも、
『私は、人に顔を見られるのは恥ずかしいですけれど……人の笑顔を見るのは、好きかもしれません……』
やはり城に活気が戻ってきて欲しい様子だった。
「……」
うーむ、とキャサリンは考える。
この考えるというのは、彼女の生前からの癖だった。
――例えば会社の中でなにか新しい企画を動かしたいと言われた時、例えば他の会社が○○をやり始めたと聞いた時、例えば「最近仕事が上手くいってなくて……」と相談を受けた時。
彼女は自然と、誰に言われるでもなく自分の頭で考え始めるという癖が付いていた。
自分ならどうするか? どんな企画なら成功しそうか? 他の会社が○○を始めたのなら、自分の会社ではどんなことができるだろうか? 今の状況なら一体なにができるだろうか? もし自分なら――
この「自分ならどうするか」「どうしたら上手くいくか」「今なにができるか」と無意識に考え始めるのが、キャサリンもとい佐藤法子の癖であり習慣でもあった。
もっともこれは、彼女が意図的に習慣化した思考回路でもある。
何故なら、彼女にはバリキャリ時代からの一つの目標――いや〝夢〟があったから。
そして彼女は――ある一つのアイデアを思い付く。
『キャサリン嬢?』
「……もし、ですけれど――この城に活気を取り戻せるかもしれない、と言ったらどうします?」
『『『『え?』』』』
四人の幽霊たちの声がハモる。
「勿論、そのためには皆様のお力が必要となりますけれど……ご興味、おありかしら?」
不敵に笑うキャサリン。
この後にキャサリンが言い出した提案は、彼らにとって思いもよらぬモノであった。
▲ ▲ ▲
――キャサリンが幽霊たち四人と邂逅した翌日。
「……このお城で、〝お化け屋敷〟を経営したい……?」
突然キャサリンから受けた相談に、グラニーは些か困惑する。
「そうですわお婆ちゃま! このお城で〝お化け屋敷〟を経営して、ひと儲けしてやるんですの!」
意志のこもった力強い声で、キャサリンは熱弁する。
思い付いたら即行動。昨夜幽霊たちと話したことで、彼女は『ホプキンス城』が持つビジネスチャンスに気付いたのだ。
バリキャリだった前世から、キャサリンには一つの〝夢〟があった。
それは――自分の会社を持つこと。
自分で起業し、自分で経営し、自分が理想とする会社を大きくすること。
その夢のために大企業に勤めて様々な経験を積み、経営に関する知識を吸収して、やり手のキャリアウーマンとして周囲から認知され始めた――そんな頃、無念にも過労によって命を落としてしまったのである。
――この世界で前世の記憶を取り戻し、『ホプキンス城』などというボロ古城に住まわせられるとなった時、キャサリンは最初こそ「もう人生の終わりだ」と絶望した。
けれどグラニーという優しい祖母に迎えられ、個性豊かな幽霊たちと出会った時、彼女の意識は切り替わった。
同時に思ったのだ。「この城の持ち味を生かしてお金を儲け、立派に再建したい」と。
それは祖母グラニーに少しでもいい暮らしをして欲しいがため。
そして幽霊たちの「この城に活気を取り戻したい」という願いを叶えるため。
そんな二つの願いを一緒に達成する潜在的価値が『ホプキンス城』にはあると、キャサリンは見抜いたのである。
キャサリンは既にざっとではあるが城内を見て回っており、ここがどんな城なのか、どこになにがあるのか、部屋の数はどれくらいなのかなどを概ね把握していた。
『ホプキンス城』は立派な城であるが、砦という観点で見るとそこまで極端に大きな建築物ではない。
まず、元からなかったのか既に取り壊されてしまったのか、一般に城壁と呼称される城の周囲をぐるりと取り囲むそそり立つ壁は存在しない。
代わりに小高い丘の上に建てられているのと、丘の斜面下の地面が抉られたようにやや窪んでいて天然の堀のようになっているため、正門に続く長い橋を渡らないと敷地の中に入れないようになっている。もしかしたら、昔はこの堀のような窪みの中に水が溜められていたのかもしれない。
正門を潜った先には中庭があり、天守、礼拝堂、使用人居住区、馬小屋などにアクセスできるようになっている。
天守とされる部分は四階建てで、普段キャサリンやグラニーが過ごしている空間は天守《キープ》の中。
もっとも天守と言っても、『ホプキンス城』のそれは礼拝堂や使用人居住区などとほぼ全ての建物と内部が繋がっていて、外に出ずとも直接行き来できる構造になっている。故に俯瞰して見ると全体で一つの建築物と思えるデザインとなっており、区画の区切りはやや曖昧な感じだ。
城というのは要塞の役割も兼ねているから、無駄に広いリビングがあるかと思えば人一人通るのがやっとなほど狭い通路もあり、さらには分厚い石壁で覆われているため不気味なほど無音な見張り塔まで存在する。
キャサリンが調べた限り、城の総部屋数は用途問わず大小含めれば約百部屋前後。鍵がかかっていて立ち入れなかった場所なども複数あったため、少なくともキャサリンが把握している限りでは、となるが。
とはいえデュラハン伯爵が言っていたように、かつて多くの人間がここで暮らしていたことが伺える間取りとなっているのは間違いない。
どうやら地下にも色々と空間が広がっているようだが、キャサリンは流石にそこまでは見て回れていない。
ともかく――これら『ホプキンス城』の間取りは、〝お化け屋敷〟としては理想的な条件を満たしているのだ。
キャサリンは怖いモノが苦手だ。苦手というか大嫌いだ。
できれば一生関わりたくないと思っていたし、もしどこかの遊園地にある適当なお化け屋敷に入ろうモノなら、即座に失神するだろう。
それだけ彼女は、人一倍怖がりなのだ、
だが逆を言えば、それだけキャサリンは「どんなモノが怖いのか」「どうすれば人を怖がらせることができるのか」を理解しているとも言ってよい。
だって自分が怖いと思うモノを素直にアウトプットすればいいのだから。
怖がりであればあるほど、怖いモノをクリエイティブに創造することができる。
だからキャサリンは「いける」と思ったのだ。
勿論、彼女は本音を言えば「お化け屋敷なんて嫌ですわ~!」と思っている。
人一倍怖がりなのに、なにが悲しくて率先してホラーに関わらなきゃならないのかと。
何故あまつさえその事業を展開しなきゃならないのかと。
でも、それはそれとしてお化け屋敷を経営したい――。自分のやっている行為が完全に矛盾していると、キャサリンは自覚していた。他人に言えば頭がおかしいと思われかねないということも。
しかしキャサリンの経験と直感が告げるのだ。これは「成功する」「絶対に上手くいく」と。
そしてなによりも――怖いのを我慢してでも、祖母に恩返しをしていい暮らしをさせてあげたい、幽霊たちの願いを叶えてあげたいと、彼女は思ったのである。
この優しい性格と善性こそ、彼女がバリキャリ時代に多くの部下に慕われる理由でもあった。
もっとも一言に〝お化け屋敷〟をやると言っても、ここは日本ではない異世界。
ありとあらゆるモノの勝手が違う。
だがそれも込みで、キャサリンには勝算があった。
「お願いですわお婆ちゃま! 私にチャンスをくださいまし! 絶対、お婆ちゃまには迷惑をかけないとお約束しますから!」
「う、う~ん……そう言われてもねぇ……」
「お金のことは自分でなんとか致します! お婆ちゃまの手を煩わせるようなことはしませんから……!」
僅か十三歳の孫娘に迫られ、なんとも困り顔のグラニー。それは至極真っ当な反応であった。
しかしキャサリンも退くワケにはいかない。祖母を説得せねば、祖母に今以上のいい暮らしをさせてあげられないのだから。
グラニーはしばしの間考え、
「……キャサリンや、一つだけお婆ちゃんと約束しておくれ」
「? なにを、ですの?」
「〝後悔しないこと〟」
グラニーは、優しい手つきで孫娘の頭を撫でる。
「私のことは気にしないでいいよ。でもやるからには、精一杯おやり。後々になって後悔しないようにね。約束できるかい?」
「……! 勿論ですわ! 私、絶対に後悔なんてしません! 精一杯やりますわ!」
「うんうん、それなら思う存分やってみなさいな」
グラニーは、キャサリンのアイデアを了承する。
この時――キャサリンの〝ホプキンス城お化け屋敷計画〟は始動した。
