星簇くんの恋愛攻略教室〜天才占い師さまは、俺にだけズルくて甘い〜

「ほら、おいで」

「い、今準備してるんだから急かすな」

「何の準備?」

「心のな!」

 惚けた顔でさえ様になってるんだから神様は不公平だ。俺が上に乗るを今か今かと待ち侘びる彼の眼差しが辛い。

 星簇くんは椅子をこちらに向けて、再度「ほら」と手を広げる。「抱きしめるんじゃないから広げるな」とぼやきたくなった。

 俺は彼の膝に跨ぐように乗る。星簇くん背が高い割に華奢で、俺の全体重を掛けたら骨が折れそうで心配だ。
 俺は気持ち僅かに下半身を浮かせた。星簇くんに負担をかけさせないためにだ。
 しかし、気を利かせようとしているのにも関わらず、当の本人は「もっと深く乗ってよ」と勧める。

 こいつ、人の気も知らないで……!

「ふふ、姫路くん小さくて可愛い」

「やっぱり、こんな事しても何も面白くないって。それに重いし星簇くんが潰れるからやめろ」

「大丈夫だよ。僕、これでもバレエをやっているから鍛えてるんだ」

 初めて聞いたよ。勤勉そうな星簇くんが運動やっていただんて。バレエって華奢っていうイメージが拭い切れないけれど、実際は過酷だし鍛え方も違うって聞く。

 確かに心なしか、星簇くんの太腿が僅かに硬い。跨って座っているせいでこいつの体温を直接感じる。

 ……なんかこれ、恥ずかしいな。
 
 イケメンと近距離でくっ付いてるからか、目の前の視線が凄く痛い。

 身を捩らせると背中を腕を回される。逃がさないとでも釘を刺されているみたいだ。

「僕こう見えて、186センチあるんだ」

「俺は170ぴったなんだわ」

「へぇ、部活とか何かやってるの?」

「帰宅部。俺、家が神社で父さんがそこの神社の神主なんだよ。それで、下に三つ子の弟と妹がいて、面倒見たり父さんの手伝いをしてるんだ」

 三人共まだ中学生だから、父さんたちが仕事で忙しい時は夕飯を作ったりしている。何より、三人のうち二人は運動部な為食べ盛りだ。

 あとは、三卵性の三つ子だからそっくりと言うわけではないが、区別が付くのでそこはありがたい。

「そう。……姫路くんって色々大変だね」

「そう言う星簇くんは? 兄弟はいないの?」

「うん。僕は一人っ子だよ。父親が占い師で、母親が水族館の飼育員なんだ」

「どっちともあまり聞かない職業だな。そっか、星簇くんはお父さんの職業を継ごうとしてるのか。じゃあ、進路は心理学を学ぶのか?」

 職業が占い師と聞くと心理学っぽいという勝手なイメージが湧き上がる。人の心を操って恰もそれが正しいと思わせる様な洗脳と、胡散臭さが垣間見える。
 
 だが、星簇くんが占い師と言ってもそこまで危険度はない。俺と同い年だからか?

 星簇くんの喉で唸る声が間近で聞こえる。いつもの穏やかな声色とは違って低く、ドギマギしたのは内緒だ。

「心理学も学んでみたいけれど、一応趣味では調べたりしてるんだ。だから、他の事にも挑戦してみたいかも」

「星簇くんなら、何でもいけるんじゃないか?」

「勝手な事を言わないでくれるかい? 僕にだって出来ないことはあるよ。例えば君とか」

「え、俺ぇ? それはどう言う意味で……」

「そんなことよりも、知りたくないの? 僕の誕生日」

「それは知りたい。全く星簇くんが色々話を振るからだろー?」

 俺はただ、星簇くんの質問を返していただけだ。質疑応答は礼儀として重要だし、俺が責められることもない。

 俺は間違った事はしてない筈だぞ!

 そう付け加えようとしたときだ。不意に、視界から星簇くんが居なくなる。

「ほ、星簇くん?」

「ここだよ」

「ひぃ」

 耳に生暖かい息が掛かると思ったら、こいつが耳元で囁いていた。身をくねらせやめろと制するが上手く力が入らない。

 まさか、腰が抜けた……?

「ちょ、ちょっと。おいおい待てって」

「8月6日。僕の誕生日」

「へ?」

 呆然とする俺を他所に、満面の笑みを浮かべる彼。状況が理解できない。何故このタイミングで誕生日を告白するんだ。

「姫路くんは誕生日、いつなの?」

「お、俺……?! 1月3日だけど」

「へぇ、お正月あたりなんだね。おめでたいなぁ」

「何でそんなに嬉しそうなんだよ」

 大の男の誕生日を聞けても何の得もしないだろう。それなのに、喜ぶから意味が分からない。やっぱり、イケメンは性格も素敵なんだな。例外を除いて。

「どうしてだと思う?」

「どうして……?」

 全く見当がつかない。星簇くんが首を傾げる様を、倣って真似をする。首を傾げれば閃くかと思ったが間違いだった。

「……ごめん。分からない」

「ふふ、良いんだよ。ただ、君のこともっと知ることができたなって、それだけ」

 それだけなら、何でそんなに微笑むんだ。

 俺はそう追求したかったが、星簇くんがあまりにも喜ぶので口を閉ざしてしまった。



⭐︎

「それにしても、どうやって聞こうか……」

「何かお悩みかな? 織ちゃん」

「ぐぇ、文月!」

 机に伏せていると、頭上から声と共に重石が乗っかった様な圧迫感が襲う。

 てか、今さりげなく「ちゃん付け」したよな?
 
「天川さんの……」

「何々、天川さんの〜?」

「お前声がデカいんだよ、こっちは真剣に悩んでるんだぞ」

 しかも面白半分で聞くから一発ぶん殴ってやりたくなる。

「そんな眉間に皺を寄せて考え込む織が面白くて」

「どこが面白いんだか……」

 星簇くんといい、本当みんなは俺を揶揄うのが好きだよな。

「それで? 天川さんの何が気になってるの?」

「……誕生日」

「え? 逆に知らなかったの?」

「そう言われると思ったわ!」

 マジで星簇くんと一緒の事考えてんじゃん。
 何? 裏で仕組んでたりする?

 だから、あの時は思い浮かばなかったんだってば!

「しょうがないだろぉぉ……」

 机に更に沈む俺に、「あらら」と大して驚きもしない声が降りかかる。

「そもそも何で誕生日なんか知りたいの?」

「そ、それはだな……」

 言えない。
 相性占いするから、天川さんの誕生日が知りたいだなんて。
 こんな事、馬鹿げているなんて俺自身も思う。でも好奇心が勝ってしまうのだ。

 人を好きになると何でも知りたくなるのはこのことか?

 自己解釈は置いておき、なんと理由づけよう。思い悩む内に、文月が勝手に解釈してきやがった。

「あー! もしかして、プレゼントあげるんでしょー?」

「お、おう……。まぁ、な」

 普通な回答で助かったー。

「じゃあさ、直接天川さんに聞いてみればよくね?」

「えっ?!」

 助かった、じゃねぇ!!

「ちょっと待て! 何故そうなる!」

 歩き出す文月に抱き付く形で止めに入る。文月はまたしても宥めるだけで、真剣じゃない。

「大丈夫だって、ちょっと露骨くらいが伝わりやすいってば」

「俺は一回、告って振られたんだぞ。だから、今回は慎重に行きたいんだ」

「だけど、今の状況ならいけるんじゃないか? 天川さんと偶に会話してるの見かけるし」

「それは……まぁ、そうだけれど」

 実を言うと、恋愛進捗はますますと言った所だ。
挨拶の件から天川さんと喋る機会が増えた。挨拶だけではなく、他愛のない話をする様にもなった。

 昨日なんて日本史の板書ノートを見せて貰ったのだ。

 あんな美少女と一緒にいる空間だけでも充分贅沢してる。でも、星簇くんの協力を無駄には出来ないし、告白して付き合える様になりたい!

 俺の今の行動が運命にかかっているとは本当のことだったんだな。星簇くんの占いは当たるもんだ。

「あ、そういや、後ろの掲示板にみんなの自己紹介が書いてあったよな? そこに誕生日書いてあるんじゃね?」

「それだ!! 文月天才!!」

「だろー? もっと褒めてくれてもいいんだぜ?」

「調子に乗るなよ」

「随分と辛辣だね!」

 そうと決まればと俺は一目散に教室の掲示板へと向かう。文月の言う通り、新学期始まったばかりに書いたクラスメイトの自己紹介がずらりと並んでいた。

 天川さん……天川さん……。

「あった! 6月4日だって!」

「へぇ、織とは真逆の季節なんだな。お前冬生まれだったよな?」

「そうだよ。ちょうど正月真っ只中。それにしても、天川さんの誕生日かぁ……」

「私の誕生日がどうしたの?」