星簇くんの恋愛攻略教室〜天才占い師さまは、俺にだけズルくて甘い〜

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次の日。

「あんまり眠れなかった……」

 未だ思い瞼を擦り、校舎へと着く。明日のことで逆に意識してしまい、結局深夜三時ごろに就寝した。

 自分から天川さんに話しかけるってなると緊張するなぁ。
 いやいや、前に告白する前は猛アタックしてきたんだからその勢いでやればなんとかなる!!

 それに星簇くんも、接触する回数が大切だって言ってたし。彼の占いを信じよう。

 下駄箱で上履きに履き替えると、隣に外靴を入れる天川さんを発見。俺は思わず「ひぃ」と怖気付きそうになった。
 
 危ないは危ない。天川さんに変な所を見られる所だった。

 それにしても天川さん。今日も可愛いなぁ。髪も肌も綺麗だし、何より雰囲気が小動物みたいで守りたい。

「あ、天川さん!」

 俺は成り行きで彼女に声をかける。天川さんは惚けた顔に首を傾げ、「ん?」とソプラノ声を漏らす。

 俺は再び悶絶するのを抑える。
 
 めっちゃ可愛い〜〜!!

「おはよう。あ、天川さん……」

「おはよう姫路くん」

 天川さんは快い挨拶を返してくれる。それだけでもう校庭100周できそうな勢いだ。

 よっしゃ挨拶できた!
 さて、次はどんな会話を繰り広げよう。

「あ、あの……えっと」

 思ったように口が開かず冷や汗が垂れる。
 まずい。
 挨拶のことしか考えてなくて、次はどうするのか何も考えてなかった。

「姫路くん?」

 天川さんが可愛い声で俺を呼ぶ。耳がビクリと反応して、吐き出された言葉は自分でも見当違いなものだった。

「きょ、今日! い、良い天気ですね!」

「……姫路くん。今日、曇りだよ?」

「……」

 たった今、脳内天気は雷雨へと変わった。雷の一撃が俺に直撃した感覚に襲われる。

 終わった。
 頭の中でその文字がぐるぐると駆け巡った。

「姫路くん、大丈夫?」

「うん。ダイジョブです」

「美波〜〜。早く行こー」

「うん、分かった。姫路くん、また教室でね」

 天川さんは隣のクラスの女子の所に駆け寄った。仲睦まじく教室へと向かう二人の姿に俺は途方に暮れていた。

 あ、天川さんとあまり話せなかった……。

「ばぁ」

「ぎゃあ?! ほ、星簇くん!」

 突然後ろから彼に脅かされ、素っ頓狂な声が上がる。思い切り振り返ると星簇くんが揶揄い混じりに笑う。

 マジで心臓が止まるかと思った。

「おはよう、姫路くん」

「お、おはよう。もう、びっくりしたじゃんか!!」

「あはは。姫路くんの反応が可愛くてつい」

「可愛いって何だよ! 男に可愛いは禁物だ」

 イケメンから何言われても恥ずかしいって思うのは俺だけか?
 反則だぞ! 俺は認めたくない!

「一人百面相してどうしたの?」

「星簇くんのせいだ」

「えぇ? 僕のせい?」

 態とらしい反応が返ってきて、俺はそっぽ向いた。さっきの天川さんとの会話、こいつに聞かれてないよな。
 
「どう? 挨拶はできたかい?」

「うん。まぁな……」

「その割にはご機嫌斜めだね。何かあったの?」

 星簇くんの言葉に静かに頷いた。

「挨拶の後、何も喋れなかった」

「おや、そんなことか」

 大したことなさげな態度に俺は無性に腹が立った。

「そんなことって何だよ! 俺からすれば重大なことなんだぞ」

「別に無理に話題を作らなくても良いんじゃないかな。取り敢えず挨拶ができたのは大きな一歩だ」

「……本当?」

 上目遣いで睨むと、彼のご尊顔が更に綺麗になる。

「あぁ、本当さ。でも、今日頑張ったからって明日は挨拶しないとかはダメだからね」

「んなこと当たり前じゃん! 毎日やって見せる!」

 天川さんと仲を深めて、もう一度告白するんだ。星簇くんがそう言うんだから絶対できるって信じないとな。

「そう言えば星簇くん、今日は授業受けるのか?」

「僕だってここの生徒だよ。それに、いつも授業をサボっている訳じゃないからね」

「サボったことあるのかよ」

 学年一の頭脳を持つ奴がサボってどうする。

「何でだよ……」

「まぁ、あまりクラスの人と仲良くないって言うのもあるかな。僕はあまり集団が苦手でね」

「……もしかして、女子に追いかけ回されてたりする?」

 嫌な予感がして直感で思ったことを尋ねる。すると、案の定気まずそうに視線を逸らすので贅沢な悩みだとこっそり思った。

「姫路くんまでそんなこと知っているのか。まぁ、あながち間違ってはないかな。僕もあまり、急接近な態度は苦手なんだよね。女子からの高圧的な態度に疲れるばかりで……」

「急接近な態度、か」

 ん? あれれ。

 そこでとある疑問が浮かび上がる。

 星簇くんの言葉が本当なら、こいつは馴れ馴れしいのが苦手なはず……。

 あれ、俺と星簇くんって最近ちゃんと知り合ったばかりだよな?

 じゃあ、さっきの脅かしも、昨日の耳打ちも一体なんだんだ。そこまで仲良くない奴にする事だったのか。

 数珠繋ぎみたいに増える疑問は考えれば考えるほどお先真っ暗だ。

「それに……」星簇くんの声のトーンが低くなる。

「僕、あまり友達いなくて……。クラスメイトと上手く馴染めてないって言うのもある。事情もあるけれど、僕自身が人と仲良くなるのは苦手なんだ」

「なら、俺と喋ろ!」

 俺の提案に星簇くんはピタッと固まる。

「え?」

「一人が怖いなら俺が付いてる。あ、文月も一緒だぞ! 文月のこと知ってるか? 仲の良いクラスメイトなんだけれど、めっちゃ陽キャな奴でさー」

「……」

 心底信じられないと驚愕のまま、星簇くんは俺を見つめる。何も言わないから逆に不安になるな。そんなに信じられないのかぁ?

「安心しろ! 星簇くんが嫌じゃなければこれから仲良くしたいし、同じクラスメイトだし。あ、そうそう、俺お前に渡したいものがあるんだ」

「わ、渡したいもの?」

 挙動不審になる星簇くんにくすりと笑う。ミステリアスなこいつがキャラ崩壊してるのは、何だか面白いし可愛い。

 くそっ、イケメンって可愛いも似合うのかよぉ〜!

「ほら、これ」

 内心滝の涙を流しつつ、鞄からルーズリーフが入ったクリアファイルを渡す。星簇くんは途端に首傾げ、その場で中身を確認する。

「これは……? 授業の板書?」

「昨日授業受けてなかっただろ? だから、いつ授業を受けても大丈夫なようにまとめといた」

「それって、僕のために……?」モノクル越しの瞳にハイライトが増える。

 つぶらな瞳に見つめられたら恥ずかしくなるのも当然。言い方がぶっきらぼうになってしまった。

「じゃなきゃなんだよ! ただ、占い師と学生を両立してて大変そうだし、少し力になれたらって思っただけだ。でも、字が汚いのは勘弁して。俺字を書くのが苦手なんだよ」

 昨日、夜遅くまで板書を写した甲斐があった。二周もノートを書くみたいで、テスト範囲に出されたら満点を取る自信はある。
 右手の中指に出来たペンだこをそっと撫でた。

「……本当、君には敵わないなぁ」

「今何か言ったか?」

 星簇くんはボソッと何かを呟いたみたいが、上手く聞き取れなかった。星簇くんは首を横に振って何でもないとだけ零した。

「さぁ、早く教室に行こうか」

「おう、行こーぜ!」

 俺が先に背を向けて歩くと、後から星簇くんが現れる。スラリとした体型が余計に目に焼き付くが、気にせず並列で廊下を歩いた。

 
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 教室にて。
 俺は、先に教室で待つ親友に星簇くんを紹介することに。

「文月、紹介します。こちら、星簇くんです。星簇くん、こいつが文月ね」

「織。なんか、俺の紹介だけ雑じゃね?」

「初めまして、星簇彦史郎です。えっと、天神文月くんで合ってる……?」

「おう、合ってる合ってる! てか、星簇くんマジでイケメンなんだけど。あ! ウチの姫ちゃんがお世話になりますぅ〜」

「……うちの姫ちゃん?」

「おいこら星簇くんに余計な事吹き込むな! 星簇くん、こいつのことは気にしないで!」

「……うん、分かった。彼とは凄く仲が良いんだね」

「文月とは中学から一緒なんだ」

「……へぇ」

 星簇くん、なんか笑顔が怖かったけれど何かあったのか。そう聞く前に、普通の顔に戻ったので気にしないことにした。

 ま、そんなこんなで、文月と星簇くんは仲良くなりました。