星簇くんの恋愛攻略教室〜天才占い師さまは、俺にだけズルくて甘い〜

「何のことだ?」

 首を傾げて尋ねると、心外だと星簇くんは目を丸くした。

「おや、忘れたとでも言うのかい? 僕は恋愛相談を受ける代わりに、君自身について教えてくれるという交換条件だっただろう?」

「あ!」

 そう言やそんな約束もしたなぁ!
 占いのことしか頭に入ってなかったから、対価について忘れていた。

「そ、そんで……? 星簇くんは俺の何を知りたいの?」

「じゃあ、星簇くんの初恋の相手について教えて欲しいな」

「何?! だ、だから、昨日の話は忘れろって言ったじゃんか。そもそも、俺たち一昨日までは初対面同士だったじゃん! だから、自己紹介的な物でいいのかと……」

「でも、あんな風に熱烈に話されたら気になるでしょう? 幼い頃って言っても今なっても忘れられないんだから、それだけ好きだったってことだよね?」

「お前、さては人の不幸を笑って楽しむやつだな?!」

「ふふ、何のことやら」
 
 はぐらかす癖に笑いが隠し切れてない彼に、俺は恥ずかしくなる。こいつはイケメン天使の皮を被ったイケメン悪魔だ。
 笑う姿も品があって、これがイケメンと平凡の落差なんだなって。

 いつの間にか星簇くんは俺の隣に座っていて、机に肘を付いて待っていた。
 
「ねぇ、話して?」

「くそぅ……! わ、分かりましたよ! 話せばいいんだろー! 別に大した話じゃねーよ」

「僕は君の話だから気になるんだよ」

「恥ずかしいこと言うな! 全くもう。……俺が小学生の時にその子とは会ったんだ」


⭐︎⭐︎⭐︎

 俺の住んでいる地区には、小学校が二つあった。一つはゴリッゴリの私立でお嬢様学校って呼ばれてた。

 そんでもう一つは公立の小学校。俺は勿論後者だ。
登下校の時に偶に私立学校の制服の児童とすれ違うんだよ。
 初めはまぁ、金持ちっていうイメージしかなかったから気にせずいたんだ。
 それで、俺はよく近くの公園で遊んでいたんだよ。遊具もあるから友達とでも、一人でも楽しめるから毎日ように遊んでた訳。

 そしたらある日さ、その公園に向かったら白銀髪の女の子が蹲ってたんだよ。周りに大人も居ないし、体調が悪いのかなって駆け寄ったら、その子びしょ濡れでさ。
 しかも、あの私立校の制服の人だったんだよ。何でこんな目に遭っているんだって困惑した。

 その女の子のそばには空っぽになった水筒が転がってたんだ。どうりで麦茶臭いなって思ったら、水筒を頭から被ったみたいだったんだ。

 そしたら、近くでクスクスっていう感じの悪い笑い声が聞こえてきた訳。俺がその方向を向くと、その子と同じ制服を着た数名の奴らがこっち見て笑ってたんだ。

 俺はムカついて思わず、

「おい、何やってんだよ! そんな詰まらないことするなんて、お前らもガキと一緒だな!」って言っちゃった。

 そいつらは間抜けな顔をした後、一斉に睨んで走り去って行った。

 全く、どいつもこいつも最低なことばっかりしやがって。

 だけど、目の前の子は微動だにせず蹲っているままなんだ。流石に心配で恐る恐る声をかけたんだ。

「だ、大丈夫か?」

「……うぅ」

「もう、あいつらは追い払ったから平気だ! 膝擦りむいてるから、あそこの水道で洗お……」

 女の子がゆっくりと顔を上げた時、俺は心臓が止まりかけた。長い睫毛に隠されたつぶらな瞳と目が合う。
 色白の肌と艶のある唇。
 
 その子、滅茶苦茶な美少女だった。そこで俺のハートに弓矢が刺さって一目惚れに落ちたと言う訳だ。


⭐︎⭐︎⭐︎

「その日をきっかけにその子とは仲良くなったんだ。お互い通う学校が違うから毎日じゃないけれど放課後に集まって遊んだんだ。後は、あの子が頭が良くて俺の勉強を教えてくれたりって」

 今でも思うんだけれど、あの頃の方が青春を楽しんでたんじゃないかな。俺はまだガキで下心とかよく分からなかったから、マジで楽しかった。

 何より、あの子が純粋に大好きだった。

「本当、今何してるんだろうな」

「その子の名前は?」

「名前? あぁ、それなんだけれど。名前を聞いたら、その子の声が小さくて聞こえなくて……。だけど、もう一回聞くのも失礼だって思って。それで、唯一「ひ」だけ聞き取れたから、「ひーちゃん」って呼んでたんだ」

 本当、ひーちゃんは今何してるんだろうな。
 だけど……。

 俺の表情が暗くなったのを察知した星簇くんが話を切り出す。

「それで?」

「……お互い五年生に上がる前にひーちゃんが親が転勤で一緒に海外に戻ることになったんだ。それを聞いた時、凄く悲しくてめっちゃ泣いちゃってさ」

 今思うとあの歳で大泣きは恥ずかしいし、俺も話す時頬を掻きながら顔が赤いのを誤魔化した。だけど、星簇くんが真剣に聞くものだから俺も調子に乗って洗いざらい話した。

「それで、引越しの前日にいつもの公園で待ち合わせしようってなったんだ。だけど俺、約束守れなくて行けなかったんだ」

「……どうして来なかったの?」

「マジで恥ずかしいんだけれど、インフルになっちゃってさ」

「へ?」

 流石の展開に星簇くんも拍子抜けしていた。モノクルがズレて、ポカーンとしていた。俺はイケメンがそんな表情するのが可笑しくて吹き出してしまった。
 手を叩いて大声を上げる俺に、星簇くんは「笑い事じゃないんだけれど」と口を噤む。

 その仕草も様になっていてなんか、一周回って腹立つな。

「それで、その日のことを後悔しているの?」

「そりゃあ、後悔してる! でも、体調管理ができてない自分が悔しいし、何よりひーちゃんに嫌われちゃったなぁって……」

「……何だ。そんなことだったんだ」

 星簇くんはホッと胸を撫で下ろして、深呼吸をする。

「星簇くん? どうした?」

「いや、記憶って歳を取れば取るほど忘れちゃうものだけれど、印象深いものは何十年経っても忘れないものだってことだよ」

「え?」

「大丈夫だよ。その「ひーちゃん」は君のこと嫌いじゃないとと思う。だって、その子にとって君はいじめっ子から守ったヒーローみたいな存在だから」

 ヒーロー。

 何故だろう、本人にそう言われた訳じゃないのに安心してしまった。きっと、今まで悩んできた事を言葉にできたから嬉しかったのかも。

 星簇くんは欲しい言葉をくれるなぁ。占い師だから、人の心を見透かせるからか?

「へへ、ありがとうな。星簇くん」

 嬉しさが込み上げて、唇をニィと抑えつける。星簇くんは何も言わずにただ俺を見つめている。
 
 俺が喋り終えた事で、地下書庫にいつもの静寂が戻る。

 てか、何なんだよこの状況!
 静かになり過ぎて恥ずかしくなってきたじゃないか。

「こ、これで俺の初恋話は終わり。これで対価にはなったか!」
 
「あ、うん。そうだね、話してくれてありがとう」

「本当だよ。結構話すの緊張したからな。いつか、星簇くんの初恋相手も話してもらうからな」

「うん、いいよ」

「え?! マジで?」冗談な筈だったのに。
 
 モテ男の初恋相手とかそれはもう美少女だろ。最初から勝ち組じゃねーか。

「それに、まだ話すのには早いから」

「え? 早い?」

「それより姫路くん。明日の攻略、上手くいくといいね」

「お、おう! 明日の朝、絶対天川さんに声かけて見せる!」

 何か話をはぐらかすされたが、取り敢えず俺は明日に備えて挨拶の予行練習するぞ!
 あたぼーよと胸を張ったら、星簇くんが可笑しそうに微笑んだ。