星簇くんの恋愛攻略教室〜天才占い師さまは、俺にだけズルくて甘い〜

「これはね、タロットカードっていうんだ。占いでもよく使われてるんだよ。そうだなぁ、今回は「スリーカード」をやってみようか」

「スリーカード? スリーって三のことか?」

「そうそう。その名の通り、三枚のタロットカードを引くんだけれどね。その引く順番が大切なんだ」

 星簇くんは何十枚もののタロットカードをシャッフルし、テーブルの上に一列に広げる。

「じゃあ、姫路くん。一枚目に引きたいカードを選んで欲しいな」

「えっと……じゃあ、これ!」俺はすかさず左から何番目かのカードを指す。

 星簇くんはそのカードをひっくり返さず、次のカードを選ぶように促す。俺は、適当に目を付けたカードを指差す。

「うん、ありがとう。じゃあ、最後のカードも選んで欲しいな」

「えーっと……。あ、これ!! これにする!」

 俺は真ん中に並べられた一枚のカードを指差した。星簇くんはお礼を告げると、先程選んだ三枚のカードを絵柄を見せずに並べる。

「これから、この三枚の絵柄を見ていくんだけどね。左から順番に、過去、現在、未来を表すんだ」

「過去…?」

「そう。君は一番目にこのカードを選んだ。これは「過去」でこれまでのことが記されている。二枚目は「現在」、未来に繋げるためにやるべき事が記されてる。そして三枚目は「未来」、これは仮に現在で記された事が実際に進んで行われた結果を示す」

 長々とした説明に俺は一瞬頭がパンクする。

 つまり、要は……?

 過去、今、未来が分かるってことか!(大馬鹿)
 
 星簇くんは聡明なせいか、喋り方も賢く聞こえて話の内容が入ってこない。
 俺の珍紛漢紛な表情が面白かったのか、星簇くんは喉奥をクツクツと震わせた。

「まぁ、過去・現在・未来が分かるって思えば良いよ」

 ほら、星簇くんもそう言ってる!
 俺は間違ってなかった!!

「じゃあ、一枚目を引いていくよ?」

 星簇くんの合図に俺は元気よく頷いた。彼の色白で細長い指がカード表面を触る。ゆっくりとひっくり返していくと、俺は途端に驚愕してしまった。

「え? 何だこれ……吊るされてね?」

 カードの絵柄は、木の棒に逆さ吊りになっている男性のイラストだった。何だよこれ、どこかの拷問かよ。
 何だか嫌な予感が過った。

「ふむ」星簇くんが考え耽る。

「正位置の吊るされた男、か。まぁ、それもそうか」

「何が「それもそうか」だよ! しかも名前が吊るされた男ってそのまんまだな」

 星簇くんはどこか落胆したような顔しているし。本当、こいつは読めねぇ男だよ。

「それでさ、このカードにはどんな意味が込められてるんだよ」

「過去を示すカードが吊るされた男と言うことはね、片思いや報われない恋を意味するんだ。その他にも我慢とか少し厳しい意味が含まれているね」

 俺の予感は的中し、終始頭の中が真っ白になる。そこに、星簇くんがカウンターパンチを喰らわせる。

「姫路くんはこれまでにも色んな人に片思いをしてアタックしてきた訳だよね?」

「おう、ってか何で俺が何人ものの人に告白したの知ってるんだよ」

「姫路くんの噂は聞いているからね。確か、『恋に恋する姫様』だっけ? ふふ、可愛いね」

 俺はその返事を聞いて穴があったら入りたくなった。まさか、そんな噂が広まっているだなんて。
 確かに俺は、人より惚れっぽいし片思いも……。

「取り敢えず、二枚目! 二枚目引くぞ!」

「うんうん。その意気だよ、じゃあ引いていこう」

 星簇くんは真ん中のカードをひっくり返す。当たり前だが、見たことない絵柄に再度首を傾げる。

「ん? 何だこのカード」

「これは……。へぇ、正位置の運命の輪ねぇ」

「運命の輪?!?!」

 何だよそれ! 
 運命ってことはなんか良い意味ありそうじゃね?!

 俺は妖しく笑う星簇くんに向けて大声を上げる。

「なぁなぁ、その運命の輪にはどんな意味が込められてるんだ?」

「正位置の場合、これは好奇チャンス到来ってことかな。つまり、これからの行動次第という訳だ」

「これからの行動次第……?」

「うん。じゃあ、未来を見て行こうか。未来では姫路くんはどんな状況になっているのか」

 星簇くんが俺の手元をじっと見つめる。イケメンにジロジロ見られるのは擽ったくって、急ぐようにカードをひっくり返す。
 イラストには男女二人の仲睦まじい様子が描かれていた。

「おぉ!」

「おやおや、これは……。恋人だね、しかも正位置」

「え?! こ、恋人ぉ?! まさか、徐々に距離を縮めればそういう未来もあるってこと?」

「まぁ、そう言うことになるね」

 星簇くんが頷くと、俺の顔は途端にヤカンみたいに火照る。

 いやまだ、天川さんとお近付きになれてないのに、まさかの恋人?!
 ついに、俺のリア充生活が幕を開けようとしているのか!

「……姫路くん、顔が緩みすぎ」

 星簇くんが頬を突き、揶揄いまじりに指摘する。

「あ、悪い悪い。俺とした事が早とちりしてて……」

「そうだね。早とちりだ」

「むっ、そんな正直に言わなくても良いだろ」

 というか、星簇くん。ちょっと不機嫌?

「ははーん! まさか、こんな綺麗な結果になるとは思ってなくて詰まらないって思ってるんだろー?」

 星簇くんって案外、素直なところがあるんだな。占いで良い結果を得られて、イケメンの弱点を見つけられて二倍の満足だ。

「はぁ……」

 星簇くんは溜め息を吐きながら、モノクルを掛け直す。

「あ! 今、俺のこと馬鹿にしただろ! そんなことではしゃいで子供かよって思っただろ」

「ううん。いや、君は相変わらず鈍感だなって」

「おい! って、相変わらず……?」

「何でもないよ。さて、占いの結果も出たところだ。対策を練って、実行しなければ、結果も水の泡になってしまうからね」

「そ、そうだな! じゃあ、具体的にどんな事をすれば良いんだ?」

「こうしよう。距離を近付けたいなら、徐々に深めていく事が重要と言う事が分かったよね。それなら、まずは挨拶からしてみよう」

「挨拶……?」

 そんなことで良いのか?
 もっと大きな事をするんじゃないかと思っていたが、そんな軽いもので良いのか。

 拍子抜けした声に、聡明さを含んだ言葉が返ってくる。

「無理に距離を詰めすぎると返って嫌な思いをさせてしまうからね。これは、好きな人関係なく仲良くしたい人でも言えることだよ。何より、単純接触効果が得られるからね」

「たんじゅん、せっしょくこうか……」

 長ったらしい言葉が出てきて、ぎこちなく復唱する。

「なんだそれ」

「単純接触効果って言うのはね、ある刺激に何回も触れれば次第に好きになっていく現象のことだよ。例えばだけれど、テレビのCMで流れてくる曲があるだろう? 何回も聞いているうちにいつの間にか口ずさんでいた出来事とかある?」

「あぁ、それならあるな。特に飲み物のやつとか!」

 文月も偶に口ずさんでる時があるし、一緒に釣られて歌うこともあった。

「そう、それが単純接触効果だよ。大切なのは何回も接触することだ。1日長時間居たからって、相手が自分に気があると思ってはいけないよ。ちょっとずつ触れ合って行くことで、相手に好印象を与えられるんだ」

「はぁ……」またしても長い説明に目が点になる。

「つまり俺は、毎朝天川さんに挨拶すればいいんだな」

「そうだね。じゃあ、アドバイスも行ったことだし、
次は僕の番だね」

 ん、僕の番だね?