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七夕祭から少し経過したある日のこと。付き合って数週間が経ち、俺たちは一緒にショッピングモールへと足を運んでいた。
あれから、無事に付き合い始めた事を文月に発表したら自分の事のように嬉しがっていた。そこにいた早乙女さん、天川さんもおめでとうと祝ってくれたのだ。
俺、こう見ると人に物凄く恵まれているなぁ。やっぱり神社の息子だから縁が良いのか?
なんて変な事を考えていると星簇くんが、
「どうしたの?」と顔を伺う。
金縁のモノクルが輝き、俺はドキッと硬直した。
「いや、七夕祭のことを思い出してな」
「あぁ。確かに、みんな祝ってくれたよね、嬉しかったなぁ」
「お前珍しく素直だな」
「それは君の前だけだよ」
また変な事言ってやがる。彼のミステリアスさは人工的ではなく、生まれつき備わったのもだと実感した。
そして、二人一緒に並んで歩くと、視界の横にある店を見つけて立ち止まった。
「なぁなぁ! あそこで占いやってもらおうよ」
「……浮気かい?」
「そんな訳ねーって。何でそうなる」
だって恋人になってから、初めての占いだぞ。そんなの憧れるし、やってみたいだろ。
「占い師なら君の隣に打ってつけの人がいるんだけどなー」
「そんな事いいから、早く行くぞ」
「言っとくけれどまたインチキ占い師な時点で出るからね」
「分かってるって! 星簇くんがいるなら俺は安心だな」
「君は僕を喜ばせることが大好きだよね」
当たり前だろ。
俺は星簇くんが大好きなんだから。
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占い師の方に席に座るよう指示され、同時に腰掛ける。今回の占い師は黒いローブを被っておらず、フェミニンなスーツを着こなした普通の女性だった。
占い方法は、運命数を利用した相性占いだ。以前星簇くんとの占いでもやった事がある。
前は天川さんと相性を占ったが、星簇くんとだとどうなんだろう。
互いの生年月日を教えると、直ぐに鑑定が始まった。
「姫路さんの運命数が七。そして、星簇さんの運命数も七。」
女性がポツリとそう呟いた。
「あの、何かありましたか……?」
我慢出来ず俺は言い出す。
「まず、初めにですが、二人の相性は非常に良いと断定できます。そして、恋愛面でも友情面でも深く掴んで離さないものになるでしょう。反対に、無理矢理引き離す事はできないと言って過言ではありません。あなた達は、前世でも恋人であり夫婦であったと思われます」
「ふ、夫婦?!」
俺は思わず叫んでしまう。占い師も星簇くんも驚き、固まってしまった。
「ちょっと姫路くん、声が大きいよ」
「だって、夫婦だって言われたんだよ?! そんなのびっくりするしかないないじゃん」
「まぁそれはそうだけれど……。でも幸先が良さそうで良かった。信頼してもいいかもね」
「はは、良い結果だから?」
「当たり前でしょ? 良い結果以外はあり得ない」
星簇くんも中々に強気な態度だ。余程自信満々らしい。
俺は彼の珍しい一面に微笑ましくなった。
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占いの館を後にした俺たちは、ショッピングモールの屋上へと向かう。
「うひょー! 風が気持ちいな〜。高いし、駐車場があんなに小さく見える」
身を乗り出して辺りを観察すると、「落ちたら危ないよ」と咎められた。
星簇くんは呆れたような、それでも嬉しそうに隣に並ぶ。
「そう言えばさ、七夕祭で短冊を飾る催しがあったじゃん? 僕、実は書いてなくてね」
「そうだったのか。まぁでも、あの忙しさは理解できるな」
「まぁ、もう一番の願い事は叶ったから良いんだ。姫路くんとやっと両思いになれたんだから」
不意に手を握られ、肩が大きく揺れる。ギュッと掴まれたと思ったら、次第に指を絡められた。
これって所謂恋人繋ぎだ。
「姫路くんは短冊は書いたの?」
「書いたよ。二枚な!」
「二枚って欲張りだね」
「別に良いだろー。願ったもん勝ちだからな。だけど実はもう俺、一つ目の短冊の願い事は叶ったんだ。だから、二枚目を書いた」
「二枚目は何をお願いしたの?」
「弟と妹の願いが叶いますようにって書いた」
「君は家族思いだね、所で一つ目は?」
その質問が来た時点で、俺はたじろぐ。
「い、言わねー! だって星簇くん一つしか書いてないんだろ? だから、一つ目のやつは誰にも言わずに取っておくんだ」
「何それ、僕に隠しごと? 彼氏の僕でもダメなの?」
「駄目ったら駄目なんだ! そんな、きゅるるんな目で俺を見つめても駄目だ。こっち見るなよ」
こいつ、さては自分の顔が良い事を自覚済みだな。やっぱり星簇くんは策士野郎だ。
俺は見られたら困ると、咄嗟に鞄の中から例の短冊を取り出す。
そして、星簇くんにチラチラ見せながらにんまりと唇に弧を描いた。
「ちょっと近付くなってば! 後で見せるから!」
「後でっていつのこと?」
「それは……気が向いたらなー」
「姫路くんの意地悪。そんな事したら、どうなるか分かってるんだよね?」
「さ、さぁ? 知らねー。って、おい俺を抱き上げるな! 落ちるってば! もう、絶対見せてやんねー!」
不意に宙に上がる体に、俺は彼の肩にしっかり腕を回す。星簇くんの顔を見ると意地悪そうな顔をしていた。
やっぱり、俺は彼には敵わない。
この先も一生。
だけど、これだけは絶対内緒にしてやるんだ。忘れた頃にでも見せてやるか。
くしゃくしゃになった短冊を握りしめた。その短冊には、太い字で力強く書いてあった。
『星簇くんに、好きって告白できますように!』
⭐︎終わり⭐︎
