星簇くんの恋愛攻略教室〜天才占い師さまは、俺にだけズルくて甘い〜

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 午後公演までもう少し時間があった。途中から戻ってきた文月と合流して、少しの間屋台を見て回った。

「まぁ、星簇くんが来てくれて良かったな」

「おう、本当に良かったよ」

 テラスでゆっくりと座っていると、「文月」と年配の男性が呼ぶ。

「あれ、爺ちゃん」

「楽しんでるか?」

「おう、さっき織とも出会ったし。一緒にクレープ食ってるの」

「そうか、それは良かった」

「この方が文月のお爺さん?」

「そう、俺の祖父。実は、ここ天神高校の校長でもあるぜ。あんまり顔を出さないから、忘れてると思うけど」

「はぁぁぁぁぁぁ?!?! 何それ、初耳なんだけれど!」

 よく見ると、みんな私服でやクラスTシャツで溢れかえっているのに、この人だけ清楚にスーツを着こなしていた。

 文月とは長年の付き合いだと思ってきたが、まさかとんでもない爆弾を隠していたとは。

「あ、えっと……。俺は、姫路織って言います。文月とはお友達の関係で……」

「あぁ、知ってる知ってる。文月がよくあなたの事を話すからね」

 校長の言葉に目を丸くする俺。目の前では文月が、俺の畏まった態度にツボに入っていた。

「急な敬語やめてよ。クレープ食ってるんだから。俺の家族、結構偉い人ばっかりでさー。まぁちょっと家もデカくて……」

 成る程、俺の家には何回か遊びに来たことがあるが、どうりで家に呼ばせたくない感があったのそう言う事か。

「それで、友達関係でいざこざがあって……」

「そうだったのか」

「でも、織とはこれからも親友として仲良くしたいし一緒にいたい。ごめんな、今まで黙ってて」

「謝るなよ。寧ろ話してくれてありがとうな。勿論文月のことはこれからも親友だって思ってるし、ずっと仲良くしたい」

「ありがとう、織」

 きっと楽観的な思考の裏には、押し潰してきた感情が沢山あったのだ。第一印象は、フレンドリーである事は変わらないが、それでも文月を深く知るきっかけにもなった。

 これにより、俺と文月の間に繋がる絆がより深まった気がした。
 その様子を校長が微笑ましく見つめていた。

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 午後公演まであと十分を切ろうとしている。どうやら、星簇くんのイケメンパワーが効果覿面だったみたいだ。
 教室外では、先程の倍以上の待ち人がいたのだ。男女問わず顔が良い奴のところには興味が惹かれるようだ。

 そんな繁盛効果を与えた張本人はどこか去っていってしまったらしい。残念がるあいつらの裏で、俺は内心ドキドキが止まらない。

 そして、俺と同じ見学係は、受付案内の手伝いを任された。だが、例の約束の時間が迫ろうとしていたため、

「俺、ちょっと人に呼ばれたからやっててくれ」

と頼み込み教室を後にした。

 午後公演の為に並ぶ人たちの横を通り過ぎ、人気のない階段を上る。すると後ろから、「姫路くん」と投げかけられる。

 振り返るとそこには天川さんが立っていた。俺は最初驚きはしたが、すぐに平然を保つ。

 天川さんは午前公演で役割を見事に果たした。

「これから午後公演だけれど、行かないの?」

「ちょっと用事ができちゃって……。戻れそうにないんだ」

「そっか」天川さんは目を伏せる。

「早く行ってあげて、きっと待ってると思うから」

 彼女は全てを知っているらしい。俺は当然だと頷く。

「ありがとう、天川さん。天川さんのお陰で気付くことができたから」

「ふふ、じゃあ私は恋のキューピットなんだね。なんか良い事したなぁ」

「じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃい、姫路くん」

 天川さんは優しく手を振る。俺も振り返して、階段を上り続けた。


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 地下書庫に辿り着くと、案の定彼が待っていた。

「やぁ、姫路くん。さっきぶりだね」

 その白々しい態度が今では許してしまう。

「約束通りちゃんと来たぞ」

「ふふ、それは良い事だ。約束を守る事は人と関わり合う上で必要不可欠なことだからね」

「七夕祭の連絡を寄越さなかった奴がよく言うよ」

「でもこうして会えたんだ、それで許してくれる?」

「……別に良いけれど」

 本当、俺はこいつだけには甘い。イケメンや美少女に甘いのかと思ったが、星簇くんだけには心を許してしまうのだ。

 結局、彼に振り回されてばっかりだったな。

「てか、美波さんに告白しなくても良いの?」

「おう。てか、もう天川さんのことは友達として仲良くしたいって分かったから」

「そう」星簇くんは読めない顔で頷く。

「でも良いのかい? 僕たち一応、占い師と依頼客という関係だったんだし、こうして占いを通して恋愛攻略を学んできた筈なんだけれど……」

「だけど、これを通してやっと自分の気持ちに気付くことが出来たんだ」

「自分の気持ち……? それはどういう意味?」

 未だ惚けた顔の彼に、今度は俺がお前を振り回す番だ。

「俺は、星簇くんが好きだ!」

 地下書庫は静寂が続き、それに似合わない大声に敏感に捉える。声が天井までに届いてるこだまする。
 そうなると、言いたい気持ちが突如として収まらくなった。

「顔が良いところも、性格がちょっと意地悪だけど優しいし、困った時はすぐに助けてくれる。それでミステリアスな癖に意外と繊細な所も好き!」

「ひ、姫路くん?!」

「だから、星簇くんが困った時には力になりたいし一緒に考えたい! それで、もっと星簇くんのこと知りたい。放課後じゃなくても、星簇くんと一緒にいたい」

 最後まで言い切り、俺は束の間の安堵を感じる。同時に羞恥心が湧き立ち、今すぐこの場から逃げ出したくなった。

 あれ、告白ってこんなに緊張するものだったのか?!
 やばい、本当に恥ずかしい。俺変な事言ってないよな…?

 困惑が頭の中を駆け巡る中、いきなり強く抱き締められ前が真っ暗になる。

「わぁ?! ほ、星簇く」

「僕も姫路くんとずっと一緒にいたい」

 星簇くんが俺の肩に肩を埋める。

「君はいつも元気で、色んな人に優しいし誑かしてばっかりで、振り回されてるのはいつも僕の方。君に振り向いて欲しくて頑張ったのに」

「そうなのか……?」

「告白だって僕からカッコよく決めたかったのに、君はいつだって美味しい所を掻っ攫うんだ。本当、心臓が幾つあっても足りないよ」

「え、じゃあ……」

「僕もずっと前から姫路くんの事が好きだよ。君と出会ってから、ずっと。ひーちゃんって可愛く呼んでくれてたあの時から」

 はとくんと呼ばれていた幼い頃の記憶が蘇る。あんなに華奢で、俺の後を必死で着いてきたひーちゃんと、やっと思いが繋がった。

 俺は嬉しさが込み上げて、涙が溢れる。星簇くんは指で涙を拭う。その表情は慈愛に満ち溢れていた。

 星簇くんと向き合う形になる。彼がそっと、俺の頬を両手で包んだ。まるで、昔の頃に戻ったみたいだ。

「ひーちゃん」

「何? はとくん」

「やっぱり、ひーちゃん呼びは恥ずかしい」

「そんなに焦らなくても良いよ。そんな君も可愛いもん」

「お前さぁ、恥ずかしいことばかり言うなって」

「君だって恥ずかしい事ばかり言うだろう? その仕返し」

「何だそれ」

 俺は可笑しくなってケラケラと笑い始めた。それに釣られて、星簇くんも口元を抑えて笑い出した。


 姫路織。
 人生初めて、イケメンの彼氏ができました。