星簇くんの恋愛攻略教室〜天才占い師さまは、俺にだけズルくて甘い〜

 そして、七夕祭当日。
 最後のリハーサルも完璧に終え、みんな今日という日を楽しみにしていた。

 結局、白雪姫を中心に様々な童話をミュージカル風に表現して行くという形になった。

 王子様役は男子バスケ部の守沢、姫役は勿論だか天川さんになったのだ。だが、一公演ごとに主役を演じる人たちは変わるため、その他にも二人ほど役を任されている。

 七夕祭前日では、委員長たちが公演予定日を確認したり、手作りの整理券の枚数を確認していた。

 そして七夕祭当日を無事に迎え、第一公演予定時刻が迫ってきている。役柄を持つ人たちは勿論、裏方で支える俺たちも緊張感が高まる。

 教室の中と外の様子を確認していた男子生徒が、はしゃいでも戻ってくる。

「やばい、教室の外まで長蛇の列になってる」

「まじで?! これは予想外の大人数だな」

 困ったと頭を抱える委員長だが、それは嬉しい悲鳴でもあった。
 それはそうと、今日の七夕祭は俺の家族も来る。みんなにはクラスの出し物については話しているから、来る筈だ。

 何より、先程メールで「今、整理券もらって並んでる」という妹の返事が来たのだ。その他にも、宣伝係の人たちは看板を持って学校内を徘徊。
 放送室を一時的に借りて、校内放送を行うなど。対策はバッチリである。

 そして客の召集等を終え、教室内の半分は生徒は勿論来賓客で溢れていた。

「開始まであと1分切ったよ」

 映像係の女子がパソコンを見ながら合図を送る。公演初回は、委員長の挨拶から始まるのだ。

 委員長はクラスのみんなを纏めてたこともあって、非常に責任感を持っている。

「今日はお集まりいただきありがとうございます。是非最後まで楽しんでください」

 委員長は深々と頭を下げると、教室内は拍手の雨へと変わる。舞台裏側で待機する俺たちも釣られて拍手をした。

 委員長が戻ると、演出により照明が徐々に暗くなる。正面の巨大スクリーンにはお城の画像が映し出されると共に、メルヘンチックな曲も流れ始めた。そして、みんなお待ちかねの主役たちの登場である。
 
 俺たちも、次の場面の為に積極的に行動し始めた。

 ついに、七夕祭開始である。


⭐︎

「ありがとうございました!!」

 初回公演は無事に幕を下ろした。辺りは盛大な拍手で包まれる。みんなの顔を盗み見ると、安堵の顔が多い。
 あれだけダンスやセリフを覚えたんだ。沢山練習して、大きな緊張を負うのも無理はない。それでも無事に終えことが一番の喜びだ。

 何より、お客さんの楽しんでいる顔が見ていて嬉しかった。彼らの退場を最後まで見送ると、その安堵さも爆発してみんながはしゃぎ始めた。

 俺は、隣にいる文月とハイタッチをかました。

 だけど、俺は一つだけ悩みがある。それは、星簇くんが未だ学校に登校していないことだ。

 連絡では「遅れる」とだけだったが、それ以来何も着信がない。

 クラスのみんなが、「終わったー」「やったー」「気を抜くなよ、次もあるんだからな」と会話を盛り上げている。その中で、照明係の男子生徒が俺に声をかけてきた。

「姫路ー? お前を呼んでって言ってる奴がいる」

「え? 俺?」

 もしかして星簇くん……?!

 そう思い、教室の扉を開ける。しかし、予想が外れ複数の見慣れた存在に別方向で「おっ」とびっくりする。

 そこには俺の弟と妹たちの姿があった。一番左にいる弟の紬は拍手をしながら喋る。

「兄ちゃん、お疲れ様」

「よー! (つむぎ)。どうだった、俺たちのクラス」

「楽しかったよ、あれだけの迫力を出せるだなんて凄いや」

「長蛇の列で並ぶの大変だったんだから」真ん中にいる妹の(あや)は若干疲弊気味だ。

「所で、お兄。その服はクラスTシャツのやつ?」右側にいる弟の(けん)は俺の服をまじまじと注目する。

「そうそう。かっこいでしょー? 兄ちゃんに似合うか?」

「服に着せられてるって感じ」

「失礼な奴だな」

 ちなみに、おしゃれ好きなのも絹である。以前星簇くんのお出かけに着る服をコーディネートしてもらった張本人だ。

「織〜〜」

 文月が俺の後を着いてくる。彼は、弟たちを見つめて元気よく手を振った。

「紬くん達も来てたんだ。俺たちの出し物楽しかった?」

「うん、楽しかったよ〜」

「えー? 誰々? 誰が来てるの?」

 話を嗅ぎ付けたクラスメイト数名が現れる。中には委員長も居て午後の公演の打ち合わせをしていた最中だったようだ。

「えっ、可愛い子いるんだけれど。誰かの知り合い?」

「家族じゃね?」

「は、始めまして。俺は姫路紬です。兄さんがお世話になってます」

「姫路絢でーす」

「姫路絹です。どうも」

 紬たちが順番に自己紹介をする。「姫路」という苗字でクラスメイトが俺の方を一斉に見る。

「こいつら、俺の弟と妹なんだ。実は三つ子でさ……」

「えっ?! 姫路くんの弟と妹って三つ子ちゃんなの?! でも、全然似ていないね」

「まぁ三卵性だし、寧ろその方が助かる」

 一卵性だったら見分けつかねーもん。同じ顔が三人もだぞ?
 そのおかげで、顔は勿論性格も言動も違う。喧嘩はあまりしないが言い合いはしょっちゅうだ。そして、大抵俺が情けないことに負ける。

「一番左にいるのが(つむぎ)、真ん中が長女の(あや)、一番右が(けん)だ」

 俺も軽く紹介をする。
 本当、左から順に次男、長女、三男って分かりやすく並んでて助かるわ。

「そう言えば待って、父さんたちは?」

 廊下を見渡してもいない二人に首を傾げる。絢が「それなら」と説明し始めた。

「父さんと母さんは、先に屋台の方に並んでるよ。キッチンカーが凄く混んでて、お昼買ってきてくれるみたい。お兄ちゃんも一緒に食べよ」

「お昼、もうそんな時間なのか」

 時計を見るといつの間にか正午を過ぎようとしていた。
 星簇くんからの連絡はない。俺はスマホをズボンのポケットに仕舞い、紬たちと教室の外を出た。
 
 午後の公演時間にはまだ余裕がある。今のうちに、気になる屋台や出し物を見ていこう。

 昇降口を出た俺は、人混みでごった返した広場を見て圧倒されていた。いつもはこんなに人なんか来ないのに、不思議だ。

「兄ちゃん、あそこに大きな笹の葉がある」

 紬が指差した先には、大きな笹の葉を囲んでみんなが短冊を飾っている。絢がキラキラした目で俺にせがむ。

「お兄ちゃん。私たちも、短冊に願いを書こうよ!」

「短冊ぅ? いいよ、面倒臭い」

「お兄、それが妹を思いやる心? モテないよ」

「絹ー? お兄ちゃんに向かってモテないとか言わないの」

 しかし、三人とも短冊に興味があるようで渋々着いていくことにした。受付係から短冊を一枚貰い、それぞれ願い事を書く。

 願い事……。

「願い事かぁ。……星簇くん」

 俺は咄嗟に思い付いたことをマッキーで綴る。しかし、これを飾るのは忍びなく、結局もう一枚貰うことにした。

 一枚目は、見られたら恥ずかしいし一旦ポケットの中に……。

「お兄ちゃん、書けたー?」

「まだー。絢は?」

「彼氏欲しいって書いたー」

「欲望に忠実だな。良いことだ」

「私はお兄ちゃんの妹だからね」

 それ、遠回しに俺が欲望に忠実な人間って言ってるよな。

 後から紬と絹も戻ってくる。二人とも短冊を飾ったばかりのようだ。

「紬は何をお願いしたの?」

「テストでいい点数取れますようにってお願いした」

「絹は?」

「自分好みの洋服が沢山見つかりますようにって」

「二人ともらしいな」

 三人とも現在中学二年生だ。絢は恋愛に夢中だし、紬は勤勉だ。そして絹は流行ファッションに目がなく、常に情報をチェックしている。

「兄ちゃんは何にするの?」
 
 紬はまだかと首を傾げた。

「ちょっと待ってろー? ……よし、これにしよう」

 俺は短冊を三人に見せる。

『弟たちの願い事が叶いますように』

 我ながら良いだろう。べ、別に三人に尊敬されたいから書いた訳じゃないからな。
 しかし、三人からの反応はあまり芳しくなかった。

「えー? お兄ちゃんそんなことでいいのー?」

「今更兄ぶってるの?」

「兄ちゃんも自分のことについて書けばよかったのに」

「お前ら俺をいじめて楽しいか?」

 三人ともこんな生意気に育ってしまったのが運の尽きだ。短冊を飾り終えると、改めて笹の葉を見る。

 色取り取りの短冊が見えて、まるでクリスマスツリーだ。

「そもそも、その短冊二枚目でしょ? 一枚目は何を書いたの?」

 げ、見られてたのかよ。

「こ、これは別に叶えることだから良いの!」

「絶対に?」絹の疑い深い目を跳ね除ける。

「絶対になー! それより、父さんたちまってるんだから早く行くぞ!」

「えー」と未だ納得がいかない三つ子を、俺は無理矢理連れ出した。