星簇くんの恋愛攻略教室〜天才占い師さまは、俺にだけズルくて甘い〜

「そうなの?!」

 マジかよ、それは初耳だ。早乙女さんの声は俺以外には聞こえてない。寧ろ、他の人たちはメイクに夢中になっていて都合が良かった。

「でもさ、同性が好きって言うと引いちゃったりする子もいるでしょ? 女子同士って距離感が近いから、あたし的には好都合なんだけれど。でも、それ以上が難しいんだよねー」

「早乙女さん……」

「だからあたし、ひめじんみたいに好きな人にまっすぐに好きって言える人が凄く尊敬する」

「まつ毛上げるね」マスカラを用意する彼女に俺は静かに見守っている。

「だから、好きな人に真正面から告白って馬鹿みたいだけれど一番伝わりやすいんじゃない? まぁ、あたしには難しそうだけれど」

「できる! 絶対できるよ」

 気が付けば、彼女に返していた。椅子から立ち上がって自信満々に言って見せる。

「確かに、言うのは難しいだろうけれど、好きって言われて嫌がる人なんていないよ。例外を除いてだけれど……。多分、俺が男の人を好きになっても好きだって言うもん」

「……」

「俺が今まで告白してきた女の子たちはみんな良い人だよ。だからこそ、俺には勿体無いって思ってて……。でも今は、その人に相応しくなれる様に頑張ろうって思ってる。俺、人を見る目だけなら自信があるよ」

「だから早乙女さんは良い人だよ。普通、そんな秘密打ち明けてくれないだろ?」呆然とする彼女に問いかける。
 微動だにしない華奢な肩とは裏腹に腕がふるふると震えている。

 やがて、空気の抜けた笑い声と共に、早乙女さんは「あははは!」と盛大に笑った。変なこと言ってしまったかと身構えると、

「そんなに怯えないでよ〜」と肩をバシバシ叩かれた。

「はい?」

「そんなに真面目に語らなくて良いってば。なんか、面白すぎてウケる〜〜」

「ウケるのか……?」

「まぁ、ありがと。あたしも、自分と向き合ってみようかな。それでもう少しアタックしてみようと思う」

「おう! 大切なのは徐々に距離を縮めていく事だって星簇くんが言ってた」

 何せ星簇くんから恋愛攻略の伝授を教えてもらっているからな。

 ……今はそんなことないけれど。

 俺たちの間に、しんみりした雰囲気が漏れ出す。だが、それを早乙女さん自身がぶち壊すような発言をかまし出したのだ。

「そう言やさ、ひめじんって星簇くんとは良い感じなの?」

「はぁ?! そ、それをどこで!!」

「いや、よくちちくり合ってるから察した」

「察するなよ」

 ちちくり合ってるだぁ……?
 いや、俺と星簇くんの関係は文月と天川さん以外には知らない筈。

 念のため聞いてみると、思わず声を上げてしまいそうな答えだった。

「だって、星簇くんが学校に来るとひめじん嬉しそうに駆け寄るじゃん? それで一緒に喋っているし、なんなら移動教室とかも一緒に歩いてるでしょ。それを見てた、女子たちが「あの二人ってあんなに仲良かったっけ」とか騒いでたし」

「マジ?」

「距離感も近いし、何なら、クラスのみんな色々静かに理解してるよ。文月なんか「俺の(天使)が取られたぁ」って嘆いてたし」

「知らなかった?」笑い混じりに言う彼女に俺は開いた口が塞がらない。

 何それ、初めて知ったんですけれど。
 文月の野郎、何だよ天使って。お前のせいで早乙女さんに笑われちゃったんたが。

 俺は向こう側で、盛り上がる集団を密かに睨み付けた。呑気な顔も今ではぶん殴りたくなった。

 それと同時に、羞恥心が勝って俺の顔は徐々に火照り始める。

「そ、そんなに距離感近かった?」

「まぁ、女子同士がそんな感じだから気にしてなかったけれど。中々見ない組み合わせだから、気になる人もいたんじゃね? 何せ、「恋に恋するお姫様」と「神出鬼没のイケメン占い師」っていう変わった組み合わせだし。一部の女子たちは悲鳴上げてたよ」

「嘘だろ……」

「ね、結局の所どーなの?」

 興味津々に早乙女さんは捲し立てる。
 これ、メイクそっちのけで恋バナに突入って事かよ。顔面構築途中なのに放棄するな。

「俺も正直に言って分からないんだ。自分の気持ち」

「へぇ、と言う事は嫌いって訳じゃないんだね」

 俺は思わず言い返してしまう。

「別にそんなんじゃないし。俺は、天川さんに一筋だし!」

「でも、目が合わないのは何で?」

 うぐっ。

「……」

 俺は反撃する間も無く、隙を突かれてしまい見事に撃沈する。

「ま、それでも良いんじゃない? あたし、ひめじんの恋を応援してるよ。何かあったら、相談してよ」

「俺も! 俺も、早乙女さんの恋を応援してる!」

「ふは! ありがとう、ひめじん」

 早乙女さんはそう言って照れ臭そうに歯に噛んだ。

⭐︎

 早乙女さんによるメイクが終わり、文月と一緒に一度トイレの鏡で確認する。俺の顔は別人のように激変していた。
 モデルみたいに顔の頬肉がスッキリなくなり、瞳が大きい。
 化粧でここまで変わるとは思ってなかったが、やはり熟す技術も必要だろう。
 
 文月は男性アイドルみたいな華やかな顔になった。こいつも元々顔が良いから、活かし甲斐があるだろう。

 文月と盛り上がりながら教室に戻ろうとすると、隣の教室の扉が開いていて、そこに何人ものの人影が見えた。

「あれ、天川さんだ」

 どうやら、天川さんとその友達のようだ。一体何の話をしているんだろう。

「そう言えば最近、美波ちゃんに付き纏う男子いなくなったよね」

「確かにー。あれめっちゃしつこかったし」

 一瞬、心臓を鷲掴みされたかと思った。付き纏う男子って俺のことか……?

 その場から動けず、聞き耳を立ててしまう。

「だって、ずっとグイグイきてて鬱陶しかったじゃん? 美波ちゃんと喋っている時も、ニヤけた顔が隠れてなかったし。バレバレだよねー」

「しかも、告白が今ドキじゃないって言うか。告白する時に二人きりにさせるって言う時点で怖いしー? 美波ちゃんが襲われたらどーするのって感じだったよね」

 次から次へとくる言葉が突き刺さる。

 別に俺、襲うとかそんな事考えもしなかったのに……。

 俺、もしかして最初から最後まで空振りだったってこと。他の人に笑われないと気付かないくらい、俺は可笑しな奴だったってこと……?

 呆然とする俺を他所に、一部始終を見ていた文月が珍しく「は?」と吐き出した。

「何あれ感じ悪いな。俺、ちょっと言ってくる」

「待って! 文月、今行ったら余計にややこしくなるから!」

「だけど、あれはないって」

 今にも教室に突撃しそうな勢いを何とかして防ぐ。文月も図大が大きすぎて、腕を引っ張るのが限界だ。

「そうかな? 私はそうは思わないよ」